百舌鳥の花贄下水通路に響き渡る人とも獣ともつかない形容しがたい声を背筋に汗が流れ落ちるのを感じながら聞いていた。目の前に対峙する大きく口を開け、その体から伸びる触手を弄ばせている怪物は一体どこに着いているのか分からない、けれども確実にその目で私たち3人を見下してる。恐怖に溺れそうになる既のところで小さくたたらを踏んだ。
「朔太郎さん!」
淡雪のような美しい髪を風に揺らし千代子さんは怪物から距離を取り私たちが今来た道を戻ろうと目で訴えてくる。それもそうだ、こんな人間なぞひとひねりもしないで殺せるような怪物とまともに戦っても勝ち目はない。
私はひとつ頷くとちらと斜め後ろを見る。勇さんも千代子さんとアイコンタクトをとり、戻ろうとするが酷い怪我をしているのがデメリットとなり中々思うように走れないようだ。
暴れる触手はもうすぐそこまで来ている。
「勇さん、失礼します。」
失礼を承知で勇さんを担ぎあげる。
己の体躯より大きい人間を担ぎあげ逃げるなど効率は悪いしいつものように俊敏には動けないだろう。ともすれば死んでしまうかもしれなかった怪我人を走らせる程自分は非道ではないし、この二人に芽生えかけた友愛を散らす程冷酷ではない。この二人には生きていて欲しい。二人の素性を知った私はそう思わずには居られなかったのだ。