早朝の冷えた空気が、忍術学園の屋根を静かに撫でていく。風の冷たさに季節の移ろいを感じつつ仙蔵は廊下を渡っていく。
…近隣の領地でいくつか不穏な動きがあった。もしかしたら近いうちに戦が起きるかもしれない、と。そのことを知らされた六年生たちはそれぞれ任務や偵察に駆り出されており、仙蔵もまた夜を越えて帰還したばかりだった。同室である文次郎はそれより数日早く現場に入り、昨日のうちに帰っていたはずだ。
自室であるい組の部屋の前に立ち、そっと戸を引く。わずかなきしみと共に、薄明の空気が押し入ってきた。
その時、仙蔵は少しだけ違和感を覚えた。
文次郎が、まだ寝ている。
「……?」
視線を巡らせて、仙蔵は軽く眉をひそめた。
3110