【第一章:川に浮かぶ花】
長野の山間。まだ春の冷たさが色濃く残る朝、川沿いに立ち込める靄は、重く沈んだ空気を纏っていた。
その川の土手に並ぶ規制線。
警察車両のサイレンも止み、赤い警告灯が静かにあたりを照らしている。川の中ほどには遺体を収容したストレッチャーが佇み、鑑識と警察官がその周囲を固めていた。
「……女子高生の遺体だそうです。DNA鑑定で身元は確認済み。行方不明届は十日前に出ているとのことでした」
高明は資料を手に、淡々と報告を口にした。声の調子も表情も変わらない。だが、その眼差しだけが、水面に浮かぶ一輪の花のように静かに揺れていた。
その傍らで、長身をややかがめて水辺を見下ろしていた男──大和敢助が、吐き出すように言葉をこぼした。
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