時と贈り物(クロパパ)「マスターさんはクリスマスプレゼント、何を頼まれましたか?」
グレゴリーホテルの二階にはバーがある。
子ども達が寝静まった深夜。部屋をそっと抜け出して、いつも決まった時間に二人は飲みに来ていた。
最初はたまたま顔を会わせただけだったものの、子ども達の話をする間に意気投合し、今では横並びに座って、クロックマスターとミイラ父ちゃんの二人はほぼ毎夜、談笑に花を咲かせている。
最近の話題はもっぱら、ガールが持ち出したクリスマスパーティーについて。
ここ数日、ホテル全体が世話しなく、皆浮き足立って動いているのだ。
「ワシはマイサンにゲームをやってみたいと言われたんじゃが……すいっつ……じゃったか……?」
詳しくないので何も分からん……と、クロックマスターは持っていたウイスキーロックをグイッと一気に飲み干す。
ハァ……と長いタメ息をつくその体勢は、既にだらしなくバーカウンターに肘をついていて。
しかし咎めるものの居ない空間で、マスターは遠慮なく酒が飲めるこの雰囲気が好きだった。
「流行っているらしいですねぇ……その、す、なんとか……」
うちの坊やもガールに教えて貰ったって、一生懸命話してましたなぁ~……。モンスターと一緒に旅をする……?とか―――。
クロックマスターは、静かに飲みながら話続けるミイラ父ちゃんの顔を、ジッと観察する。
ミイラ父ちゃんはザルなのか、普段酔った素振りをあまり見せない。
クロックマスターは少し悔しいが、競り合う気もないので酔っているのか聞いたことが無かった。
「……マスターさん?」
声を掛けられ、ハッと意識を戻す。すまん、聞いてなかったと謝ると、ミイラ父ちゃんはそろそろお開きにしますか~とカウンターを片付け始めた。
クロックマスターも少しよろけながら立ち上がって、片付けを開始する。
「なぁ、前から気になってたんじゃが……お前さん、ザルなのか……?」
「え?」
バーカウンターを拭きながらクロックマスターは、皿洗いをしているミイラ父ちゃんに気になったことを問い掛けた。
帰ってきたのはいいえ~そんなに強くないですよぉと言う笑い声だった。
ワシと同じくらい飲んでるじゃろ~が。
脇腹を小突いてみても、ミイラ父ちゃんはびくともしない。
実際ミイラ父ちゃんはクロックマスターより体格も良く背も高い。酒が強くても何の不思議もない。
「酒で失敗したことあるのか……?」
「ありますよぉ……聞きたいですかぁ?」
次の晩酌のネタですなぁと、ミイラ父ちゃんはハッハッハと笑った。
クロックマスターは絶対に覚えておこうと胸に誓い、ミイラ父ちゃんと勝手に肩を組む。
「ミイラ、忘れんからなァ……」
「いやぁ覚えてられますかなぁ~」
クロックマスターは酔って忘れる事も多いので、ミイラ父ちゃんはクロックマスターの言ったことは話半分で聞いていた。
酒の席での会話なんてそんなもので良いと思いながらも、時々覚えていてくれる事があると、少し嬉しくなったりするものだった。
今回はどっちですかなぁ……とミイラ父ちゃんが言った独り言を拾って、クロックマスターは絶対忘れんぞ~~と大腕を振る。
ミイラ父ちゃんはこのクロックマスターの酔っぱらって自分に正直になれる性格に、少し憧れている。自分もお酒でここまで素直になれたらと、少しだけ考えたことがあった。
では楽しみにしてますなぁ。
おやすみなさい、とクロックマスターを部屋まで送り届け、ミイラ父ちゃんは自室のベッドに横になる。
明日はどんな会話をしようか……あの話は覚えているだろうか……。
そんな、普段は考えもしない事が次々と頭に浮かんできて、ミイラ父ちゃんは頭に疑問符を浮かべた。
自分は思いの外、あの時間を楽しみにしているらしい。
息子を起こさないように、ミイラ父ちゃんはクスッと笑った。
クリスマスの雰囲気に当てられて、自分も少し浮き足立っているのかもしれない。
次に会った時はクリスマスプレゼントの交換でも提案しましょうかなぁと、ミイラ父ちゃんは唇に弧を描きながら、思いを巡らせるのだった。
おわり。