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    海苔巻

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    海苔巻

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    本編3話

    追想、再会 久しぶりに、夢を見た。すこしだけふわふわしていて、あたたかくて、やさしくて、それでいてとてもなつかしくて、とてもくるしくて、なんだかせつない、夢を。誰か、誰かなつかしい人にずっと名前を呼ばれていた気がする。

     私よりも身長が高くて、年上で、かっこいい。笑顔が似合っていて、両耳についた青いピアスが映えていて、私を守ってくれて、あれ、誰のこと、だっけ────────

    ───シルト社特殊課オフィス、15時

    「サマー?」
    「うわ、ヴァシリ先輩。どうかしましたか?」
    「いや、なんか手が止まってたからどうしたのかなーって」
    「…何でもないですよ」
    「そっか、ならいいや」
    「…」

     …何だったっけ。何か大切で、忘れちゃいけないものを忘れている気がする。過去を思い出そうとすると急に霧が濃くなるように、記憶に靄がかかってしまって思い出せなくなってしまう。かなり幼い頃の記憶なんて、きっと大半の人達が思い出せないとは思うけど、自分の場合は違う。私が高校に通っていたであろう期間の記憶が、思い出せない。高校に入ってから卒業するまで、何もかもが分からない。私が何をしていたのか、誰と関わりを持っていたのか…など。あげ始めたらキリがないのだけど。

     いや、思い出せなくても大丈夫かな。別に現状では困ったことは起こってないし。ある程度調査報告書に書くべきことをまとめ終えたため、パソコンを閉じ、席から立ち上がってか軽く伸びをする。今日はまだ依頼者の護衛をする仕事が残っていたはず。もう少ししたらその時間になるので準備をしなくちゃいけないな。

     昨日カティア先輩が2課との合同任務作業中に倒れてしまったみたいだ。リノくんから聞いた情報によると先輩が倒れたのは過労と寝不足からきたもので、医療課の偉い人達にこっ酷く叱られていたらしい。というわけでカティア先輩は休みを取っていて不在なので、今日の特殊課には2人しかいない。いつもは迷惑をかけているので、今日はカティア先輩の分まで頑張ろう。まずは護衛依頼からかな。

    ───ゲゼットローザー・アルターズ中央通り、21時

    「よし、今日の仕事は終わり!会社戻って報告書書こ!」
    「はい、問題なく終わって良かったです」
    「今日のオレたちの仕事ぶりを明日カティアに全部話そうぜ!」
    「え?いや別にそんなことしなくても」
    「うーん、じゃあオレの仕事ぶりだけカティアに話すか…」
    「それって必要あるんですか?」
    「うーん、多分ある…」
    「はぁ…」
    「サマー、疲れてる?」
    「え?まぁ、少しだけ」
    「やっぱりそう?ちなみにオレも疲れてる!!」
    「そうなんですね…」
    「あっそうだ、カティアに食い物買ってこいって言われてたんだった。サマーあとでついてきてくれない?」
    「分かりました」

     護衛依頼を問題なく遂行した会社までの帰り道。意味の分からない先輩のノリに振り回されている。今日の業務はほとんど終了したんだし、会社に戻って報告書を書いて、早く社員寮に戻ってシャワーを浴びてそのまま眠りにつきたい。

    「…サマー坊ちゃん?」
    「え」

     背後から声がする。自分の名前を呼ばれた。なんだか聞き覚えがある声で、呼ばれた。

    「もしかして、サマー坊ちゃんですか?」
    「……ミ、ントさん、なの…?」
    「はい。ミント・エアフリッシェルです。お久しぶりですね」

     自分よりも数十cmほど高いその人物はにこりと嬉しそうに微笑む。高い位置で一つに纏められているミントグリーンの髪。優しくこちらを見つめてくる深緑色の目。若干幼さが残った顔立ち。その顔とは少し不釣り合いな感じもする両耳についている青いピアス。思い出した。ミントさんだ。私が幼かったときから隣でいつも優しく見守って、どこかに行く時に必ずついてきてくれて、意味もなくただ広くて冷たい部屋でいつも話し相手になってくれた人。自分の、執事。

     どうして、今まで忘れていた?


    “そんな奴のとの記憶なんか必要ないから全部忘れちゃえ”


     冷たい声が急に頭の中で響く。一体誰?苦しい、苦しい、頭が痛い。思い出したらまた謎が増えていく。一体何?誰?分からない、分からない、分からない分からない分からないわからないわからないわからな────────

    「坊ちゃん?」
    「…ぁ」
    「大丈夫ですか?」
    「…大、丈夫」

     ミントさんに呼ばれてハッとする。大丈夫。落ち着かなくちゃ。周りに気づかれないように、落ち着かないと。

    「本当ですか?無理はしてないですか?ごめんなさい、久しぶりに会ったのもあるかもしれませんが、心配症すぎますかね」
    「大丈夫。無理なんかしてないですから」
    「そうですよね。良かったです」
    「ごめんサマー、この人誰?」

     さっきから蚊帳の外に置かれていたヴァシリが質問する。

    「あっ、ヴァシリ先輩。この人はミントさんと言って、昔私の執事をしてくれてたんです」
    「サマーの執事!?すご!!初めまして、オレはヴァシリ!!よろしくな、ミント!!!」
    「初めましてヴァシリさん、よろしくお願いしますね」

     ほぼ初対面なのに、ヴァシリ先輩はもうすでにミントさんと仲良くなっている。ヴァシリ先輩はすごいなぁ、と思う。私も初対面の人とこれくらい話せたらな、と思ってしまう。そんなヴァシリ先輩には『サマーは今のままで大丈夫だよ』って言われたけど。

    「そういえばミントは前まではサマーの執事をしてたんだろ?じゃあ今は何の仕事をしてるんだ?」
    「あっ、それ私も思いました。ミントさんは今何のお仕事なさってるんですか?」
    「今の仕事?執事を辞めたあとは中学校の教師を始めました!子供達に勉強を教えるのって楽しいんですよ。例えばそうですね…」

     プルルル…突然ミントさんの持っているカバンから着信音が鳴る。電話だ。

    「あっ、すみません。出てもよろしいですか?」
    「もちろん大丈夫ですよ」
    「ありがとうございます。あれ、学校からだ…はい、ミントです。はい。分かりました。了解です、失礼します」

     相手との通話が終了したらしいミントさんが振り返る。

    「ごめんなさい、急用ができてしまって。このあたりで僕は失礼します」
    「そっかー、またな、ミント」
    「はい。ヴァシリさんも少しの間でしたがありがとうございました。また機会があったらお話したいです。サマー坊ちゃんも、今日は会えて嬉しかったです」
    「…私も。ありがとう、ミントさん」
    「はい。では、またいつか」

     ミントさんと別れてヴァシリ先輩と2人でシルト社に戻る。今日の業務について報告書に書いてまとめないといけないので、オフィスに向かうなりすぐにパソコンに向き合って作業を始める。

    「サマー良かったね、ミントに会えて」
    「会えて良かったです。嬉しかったです」
    「また会えるといいな」
    「はい」
    「うーん…何か忘れてる気が……あっ」
    「ヴァシリ先輩、どうしましたか?」
    「そういえばカティアにおつかい頼まれてるんだった、やば!?」
    「えっ。どうするんですか、報告書もまだ書けてないのに」
    「やばい、えーっと、報告書!!!を書いて!!その後すぐにおつかいに行く!!!!今からやるよサマー!!!」

     報告書をかつてない速さで急いで書き上げて会社に提出をしたヴァシリ先輩に引かれるまま近くのスーパーに直行する。会社を出た時には22時をまわっていたのであと少し遅くなったら閉店していたかもしれず危なかった。社員寮に向かって顔色の悪そうなカティア先輩に買ってきた食べ物を渡すことに成功したヴァシリ先輩が謎に誇らしげにしていた。

    ───時は戻ってシルト社社長室、20時

     シルト社、社長室。リオ・シルトは椅子に座って各課からの報告書を読んでいた。最近はどこの課もとにかく効率が悪い。前まではこの量、この程度の仕事なら1週間もせずに片付いていたはずだ。なのに最近は2週間近くもかかるようになっている。効率が、悪い。報告書を持つ手に力が入る。一体何が原因なんだ?いや、会社に原因があるのではなく、社員に原因があるのだろう。俺の会社が駄目な訳ないだろう。全く困ったものだ。

     イライラしながら報告書を読み終え、業務成績や各課最高責任者からのレポートを確認していると、スマホの着信音が鳴る。一体誰だ?机に置かれているスマホを手に取る。

    「…」

     あぁ、そうだ。忘れていた。明日は他社と契約の話をするんだった。電話の応答ボタンを押す。

    「…はい。リオ・シルトです。はい。もちろん大丈夫ですよ。トラウト社にとっても、我が社にとってもいい話ができると嬉しいです」
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    海苔巻

    DONE本編3話
    追想、再会 久しぶりに、夢を見た。すこしだけふわふわしていて、あたたかくて、やさしくて、それでいてとてもなつかしくて、とてもくるしくて、なんだかせつない、夢を。誰か、誰かなつかしい人にずっと名前を呼ばれていた気がする。

     私よりも身長が高くて、年上で、かっこいい。笑顔が似合っていて、両耳についた青いピアスが映えていて、私を守ってくれて、あれ、誰のこと、だっけ────────

    ───シルト社特殊課オフィス、15時

    「サマー?」
    「うわ、ヴァシリ先輩。どうかしましたか?」
    「いや、なんか手が止まってたからどうしたのかなーって」
    「…何でもないですよ」
    「そっか、ならいいや」
    「…」

     …何だったっけ。何か大切で、忘れちゃいけないものを忘れている気がする。過去を思い出そうとすると急に霧が濃くなるように、記憶に靄がかかってしまって思い出せなくなってしまう。かなり幼い頃の記憶なんて、きっと大半の人達が思い出せないとは思うけど、自分の場合は違う。私が高校に通っていたであろう期間の記憶が、思い出せない。高校に入ってから卒業するまで、何もかもが分からない。私が何をしていたのか、誰と関わりを持っていたのか…など。あげ始めたらキリがないのだけど。
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