たこパするぞ───シルト社社員寮、ヴァシリとサマーの部屋、19時
時計が19時を示す少し前。ヴァシリとサマーが急に俺の部屋に来たと思ったら、突然強制的に両腕をひかれるまま2人の部屋に連れていかれた。今月はまだお泊まり会(強制参加)をしていなかったし今日するのか?今日か…俺が倒れてから2日しか経過していないのにやるのか…まだ少し頭痛はするんだけどな…などと思ったが抵抗することなく部屋に入った。
「はぁ…」
ここで座って待ってろ、と明らかに何かを企んでいそうな顔をしたヴァシリにリビングにある食卓のもとまで背中を押されて仕方なく座って待っているとヴァシリが何か大きなものを持って来た。たこ焼き器か…?なるほど、今日はたこ焼きパーティーをするつもりなのか。
「カティア!!!今日は何すると思う?当ててみろ!」
「…たこパあたりか」
「そう、たこパ…ってカティアが当てた!?!?」
「お前は俺の事を一体なんだと思っているんだ?」
「クッソ当てられないと思ってたのに…」
「…そうか」
ヴァシリに今日はたこ焼きを作る、という話を長々と聞かされている間に、サマーが具材を持ってくる。たこ焼きの生地に、入れる具材…チーズ…カットされた野菜…見ていて気がついた決定的なことを口にする。
「…タコ、無くないか」
「…あ〜カティア、気づいちゃった?」
「そうなんですよね、タコ、ないんですよ」
具材をテーブルに置いたサマーが口を開く。
「ヴァシリさんが急にたこ焼き器を買ってきて、たこパするぞ!!って言い始めて。材料も買ってきてくれたんですけど、肝心のタコがなくて」
「お前一体何を考えたらタコを買い忘れるんだ?」
「カティア、そんなにタコが好きだったのか…ごめん、カティア」
「…そんなことは一度も言っていない。タコがないのに一体何をしようとしてるんだ、お前は」
「そう!!!そこなんだよ、カティア!!!!」
「ヴァシリさんうるさいです」
「うるさい!?サマーごめん!!!今日はたこパをします!たこパといってもタコ抜きの具材ロシアンルーレットの特別ルールでな!!!!」
「そうか。じゃあ俺は帰る」
「カティア待って!!!!!」
「…」
「ごめんなさい、カティア先輩。ヴァシリさんもこの通りなので、うちでご飯食べていきませんか」
「…はぁ、分かった。命は保証されてるんだよな」
「もちろん大丈夫だカティア!安心しろ」
突如始まった、四捨五入したらほぼ100%テロのたこパが始まった。机の上にはましな具材がおいてはあるが、ヴァシリは他にも具材を用意しているらしく、不安でしかない。そのため、少しでもましなものにしようと具材に手を伸ばしたところ、何故か2人に止められた。カティアがやったらつまらなくなるから、などと失礼なことをヴァシリに言われた。お前がやって死者がでるよりもマシだろ。サマーも今回はヴァシリ側にいるらしく、先輩は食べるだけで大丈夫ですよ、と言われた。色々と心外すぎるが、仕方なく今回は食べるだけに専念する。座って見ているせいか、2人がどんな具材を入れているかが全く分からない。ヴァシリさん、それ本当に入れるんですか?だったりサマーやば!まじでそれ入れるの!!??だとか奇妙な会話しか聞こえず、不安だ。
「おし!!多分できた!!!」
「カティア先輩から食べていいですよ」
たこ焼きもどきができたらしく、食べていいなどと言われる。最初の犠牲者は驚くことに俺らしい。2人が何を入れたのか分からないため、諦めて端にあるものを一つ取り、口に入れる。
「…美味い。チーズだな」
「…カティアめっちゃ普通のやつ食べた、面白くない」
「面白いものを食べてたまるか…」
よくよく考えたら具材を入れた2人はどこに何の具材が入ってるか分かってるんだから、俺の方はあまりにも不利じゃないか?なんだこの新手の拷問。とにかくニヤニヤしながら見ているヴァシリが気に食わない。
「…」
近くに置いてある大きめの予備の皿と予備の箸を手に取り、たこ焼き器の中に綺麗にはまっているたこ焼きもどき数十個を、皿の中に一気に入れていく。これで全員が中身の具材が分からなくなるだろう。
「ちょっとカティア何してんの!?!?!?」
「何って、皿に移してるだけだが」
「ちょ、中身が分からなくなるだろ…!?」
「…それが目的でやった。そうすることでヴァシリもサマーも中身が分からなくなるだろう?」
「…っあーーーー!やられた…!!」
「ほら、次はお前らの番だろう、好きなのを取れ」
予想外の行動にヴァシリとサマーが顔を見合わせる。ぐぬぬぬぬ…と悔しそうにするヴァシリをよそに、サマーが皿の上から一つ箸で持ち上げ、口にいれる。
「ん、甘い。チョコですかね。ヴァシリさんは食べないんですか?」
「なっ…!食べるし!!これにする!!!」
サマーの何気ない一言によりさっきまで悔しがっていたヴァシリが急に一つ取って口にする。
「…にっが!?!?!?何これ、ピーマン!?」
「あ、それ私が入れたやつですね」
「何入れてんの!?」
だんだんロシアンルーレットたこ焼きに慣れてきたようで、かつ3人とも空腹状態だったようで、おのおの一つ、また一つと皿から持ち上げていく。チーズ、餅、トマト、ピーマンやチョコなど、種類がとにかくバラバラで、何気に食べていて楽しい。しばらくすると皿に乗っている残りたこ焼きもどきの数も減ってきた。意外と早いな…と思い目の前にある一つを持ち上げ、食べる…
「…っ!?」
なんだこれ、急な違和感。なんだか微妙に甘くて、柔らかい。焼くときの熱によって、少しどろっとしている。何だこの舌触り。気持ち悪い。不味い、何だこれ。
「…グミ?」
「あ、カティア食べたのか?グミのやつ」
「…っ、お前かヴァシリ、グミにも生地にも謝れ」
「カティアひでぇ顔してる、最高すぎ」
「…クソ……」
ゲラゲラと笑うヴァシリ。こんなに変なものを入れられているとは思っていなかった。後味が残っていて気持ちが悪すぎる。
「やば!?!?何これやば、あ、グミ!?!?!?!?」
「え、グミのやつ食べたんですか、ヴァシリさん」
「これ、やばい、合わない、えやばいこれ合わない」
「なんでそんなの入れたんですか…」
「こんなに合わないと思ってなかった…やば…」
さっきまで笑っていたヴァシリの顔が急に変わった。皿に残った最後の一つの中身がグミだったようだ。ざまあみろ。笑うから自分も食べることになるんだ。面白すぎるな。
「ふ…」
「うわ、カティアすっごい悪い顔してんな」
「お前には言われたくないが?」
タコ抜きのロシアンルーレット式たこ焼きパーティーは幸運なヴァシリがグミ入りのものを最後に引いて終了した。意外にも楽しかったがもう二度としたくないと思った。