髪を切る話 人間の姿を与えられて面倒だと思っていることがいくつかあるけど、髪を切ることはその中の一つだ。
「ねぇ、あんた前髪邪魔じゃない?」
我慢できずに声をかけてしまった。
こっちを振り返ったカラスの前髪は目にかかるくらい伸びていて、見るからに邪魔くさい。それなのに一向に切る気配がないから、ずっと気になって仕方がない。いい加減切ってほしい。
「邪魔だ。近々、マレフィセント様に手入れしていただく予定になっている」
「自分で切らないの?!」
思わず声が大きくなってしまった。うるさいって言われたけど、驚いたんだからしょうがないでしょ。
ふーん、でもそうなんだ。
「前髪ちょっと切るだけなのに、ご主人様の手を借りるなんて、“甘えた”だね」
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