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    るふぁんと

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    るふぁんと

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    【よその子】
    ※あきるふぁ

    るふぁちゃんが催眠術に手を出す話
    全年齢

    目覚めのティータイム 特に何かがある訳でもない昼下がり。リビングのソファにうつ伏せで身体を沈ませ、足をぱたぱたと彷徨わせながらスマートフォンを弄る。真面目に見る気も無いくせして電源を入れているテレビの音をBGMにして寛いでいた時の事だった。
    『若い人の間で話題沸騰中の、催眠術!』
     そんなナレーションの声が聞こえ、スマートフォンから目を離し、テレビに注目する。目に映ったのは、いかにも典型的な、紐に太めの輪のような金属を吊るした道具の映像だった。今時、そんな安そうな催眠術とか……。と、私はスマートフォンに意識を戻そうとした。続けて聞こえたナレーションの言葉に、再び釘付けになってしまったのだが。
     催眠をかけた相手を、なんでもその気にさせられる。なんでも、言う事を聞くようになる。そんなアニメみたいな内容に胡散臭さを感じつつも、それは十分に知的好奇心をくすぐられるものだった。
     金属を紐で吊るした道具を相手の目の前で揺らし、カウントをするだけ。カウントが終われば、その瞬間から催眠状態になるらしい。『ホットケーキが食べたくなれ』と言えば、相手はその言葉の通りに食欲をそそられるようだ。『お茶を淹れて』と言えば、その通りにお茶を淹れてくれるようになる。
    「ぶっ飛んだ催眠術だなぁ……。効くわけないじゃん、そんなの」
     という感想は漏れるが、見出しに『話題』と表記してあるのを見ると、少し信じてみたい気もする。単純に面白そう、という動機に尽きるが。こんな、どこの素人や小学生でも思いつきそうなストレートな催眠術が、簡単に話題になるわけがない。大嘘吐きが言う催眠術らしい内容が、こうも易々と地上波のテレビで取り上げられるだろうか。おふざけみたいなコレが本物だからこそ、取り上げられたのではと。その気になってる私も既に、テレビの催眠にかかっているのかもしれない。
     テレビ横の小さめの引き出しから、裁縫セットを取り出す。小学生の家庭科の衣服単元の時に配布されたものだ。元々私は裁縫で何かを作ったりはしない。授業でしか持ち歩かないコレを引っ張り出す。取り手付きの箱型。小学生向けなので、デザインがとてもファンシーだ。チャックを開けて、上蓋を開く。その中からお目当ての物を取り出す。色は拘らなかったが、比較的管理が綺麗だった緑色の糸を選んだ。
     今度は直近で使っていたバッグの中をごそりと漁る。そこから財布を取り出し、小銭入れの中から5円玉を1枚抜き取る。好奇心を刺激された私は、すぐさま緑色の糸と5円玉で例のアレを作った。摘んでゆらゆらと揺らしてみる。そこで思い至ったのは、これからどうしよう、という事だった。
     実際今私は催眠術を試したいという事しか頭に無かった。しかし、肝心の相手がいない。友達に連絡して、私の家に来てもらうか、それとも私が友達の家に行くか。そう誘うにしても、友達側からしたら突然すぎて驚かせてしまうんじゃないか、と。今から私の家に来て、とか、今から貴方の家に行くね、とか不自然すぎる気がする。こういう時に遠慮してしまうのは自分の悪い癖だと思う。
     すっかり気落ちしてしまい、せっかく作った催眠道具を片付けようと思った時だった。家のチャイムが鳴り、インターホンのある壁に向かうと、そこには特に仲の良い相棒が映っていた。ボタンを押して話す。
    「いらっしゃい、アキヤ!今扉開けるね!」
     と、そのまま玄関に向かい、鍵を開ける。扉を開けると、途端に甘い香りがした。見れば、相棒であるアキヤの手は、カラフルな紙袋を抱き抱えていた。
    「ルファ!突然だけど来ちゃった。ドーナツ買ってきたから、一緒に食べない?」
    「え、本当!?ありがとう、一緒に食べよう!とりあえず上がって上がって!」
     アキヤを家の中へ通す。そのままリビングのソファへと案内した。アキヤは上着を脱ぎ、私はそれをハンガーに掛ける。
    「お皿と紅茶を持ってくるから待ってて」
     台所に向かい、小さめのやかんに水を入れてコンロに置き、強火に設定した。やかんの水の沸騰を待つ間に、私は食器棚から白色のティーポットとティーカップを二つ取り出す。カップを取り出した時のカチャンという音が、私は好きだ。一先ずは、出来るだけ美味しい紅茶を堪能してもらう為に、ティーポットとティーカップに予めお湯を注いで食器を温めておこう。
     水の沸騰を待つ間に、ティーラックに向かい紅茶の吟味を始める。今日の来客者様はテイストやフレーバーに癖がある物は苦手だ。アールグレイは勿論、フレーバーティーはやめておこう。ハーブティーも恐らくお気に召さないだろう。真四角の缶箱を三つほど出す。その一つ、アッサムティーの茶葉の缶箱を眺め、ラックに戻す。アッサムティーは少し重いだろうなと思ったからだ。甘さが控えられている菓子であれば合うのだが。無難なのはダージリン。様々な菓子に合う所謂王道どころ。アキヤが持ってくるドーナツといえば、恐らくイチゴチョコレート系の何かが連想される。フルーツ的酸味に漬け込むならセイロンティーのミディアムグロウンの選択の余地があるが、イチゴチョコレートに酸味の区分があるかと言われると。
    「迷うなぁ。私だけが飲むなら、全部茶葉を混ぜちゃうんだけどね」
     全世界の紅茶愛飲家に対する冒涜だとも感じるが、選びきれない欲張りな念がある時は混ぜる事ばかり考えてしまう。しかし、今回はティータイムに誘ってくれた相棒が来てくれているのだから、しっかり一つを選ばなければ。と考えている内に、コンロから笛のような音が聞こえた。
    「え、もう沸騰したの?」
     茶葉の吟味に相当夢中になっていたようだ。こうなって仕舞えばなりふり構っていられない。茶葉の品種とか菓子との相性はともかくとして、お湯の温度で味質が落ちるのだけは勘弁だ。これだけは拘らせてくれと言わんばかりに、無難なダージリンティーの缶箱を手に取る。食器を温める目的で入れておいたティーポット内のお湯を流した後に、すぐさまポットにダージリンの茶葉をティースプーンで2杯分を入れる。そのまま勢い良く沸騰したお湯を注ぎ、ポットの蓋を閉める。ふぅ、と一息つく。後は数分蒸らすだけ。
     皿と手拭きも用意しないと、と思い食器棚を見る。小さめの皿と普通サイズの皿で迷う。アキヤはドーナツをどれくらい買ってきたのだろうか。一度リビングに戻る。
    「アキヤー、ドーナツ、一人何個で買ってきた?」
    「一人3個のつもりで買ってきたよ」
    「結構沢山買ってきたんだ。それくらいだと、小皿よりは少し大きめのお皿の方が良いね」
     食器棚に向かい、目処のついた皿と手拭きを用意し、アキヤの目の前の机に並べる。紙袋の中のドーナツを、トングを使って皿に取り分ける。私の好きなチョコレート系のドーナツだ。アキヤの皿のドーナツは3つとも桃色だが。
    「そろそろ紅茶も頃合いだと思う」
    「無糖ね」
    「勿論」
     だろうと思って、最初から砂糖の類は用意していなかった。ティーカップのお湯を取り除く。十分に温まったカップと、茶葉も蒸らし終えたティーポットをテーブルに置く。2つ分のカップにダージリンを回し注ぐ。
    「おまたせ!待ったでしょ?」
    「ううん、そんな待ってないよ。紅茶の茶葉選び、すごい迷ったでしょ。こっちまでガチャガチャ聞こえてたよ」
    「えっ!そんなにうるさかった!?わ〜、恥ず〜……」
     テーブルの側に座り、いただきますと添える。チョコレートのかかったドーナツを手に取り、口に運ぶ。やっぱり美味しい。生地もとてもふわふわしていた。アキヤが私の好きなドーナツを覚えててくれた事もとても嬉しく思う。少しお高めの茶葉を使ったダージリンティーも流し込む。つけっぱなしのテレビも気にならないくらい、穏やかな時間が流れていた。
    「紅茶、大丈夫だった?勢いでダージリンにしたけど」
    「うん、美味しい。でも、よくあんな手間かけられるよね。ティーパックで熱湯ポットのお湯を注ぐだけでも良いのに」
    「はは、私も面倒な時はそうしてるけど、今日は来客者様がいらっしゃいますし〜」
     お互いに菓子を食べながら談笑する。ゆったりとした時間がとても心地良い。この時間がずっと続けば良いのになぁと思う。ふわりとした安心感。一通り食べ終わって、紅茶もカップのあと少しの量になった頃。
    「ところでルファ。あそこの引き出しの所に裁縫セットが置いてあるけど、もしかして何か作ろうとしてたの?」
     アキヤが指をさした方向を見て、私は今日の昼下がりの好奇心の存在を思い出した。
    「そう、そうだった。あのね、テレビでやってた催眠術っていうのに興味があって……」
     一連の流れを話す。催眠術をかけられた相手は、なんでも言われた通りの気になり、言われた通りの事をする。そんな夢みたいな効果。勢いで催眠術の道具を作ったのにも関わらず、結局試す相手がおらず片付けようとした矢先に、アキヤがここにやってきた事。
    「ねえアキヤ!アキヤに催眠術かけてみても良い!?」
    「やっぱりそうなる?」
     流れを聞いている最中から既にアキヤは、私に催眠術の相手になってくれと懇願される事を予測していたそうだ。アキヤ自身は、特に抵抗もなさそうに言う。
    「いいよ、じゃあかけてみて」
    「やった!アキヤ、この5円玉をじーっと見て……。私がカウントして、0になったら、アキヤは催眠状態になって、全部私の言う通りになる」
     催眠術は、何もこの紐と5円玉で出来た道具が魔法の道具だから出来る、というわけではない。あくまで誘導の為の材料だという。ゆったりとアキヤの意識を誘導する為に、少しだけ声のトーンを落とし、溶けるような静けさを含ませる。
    「10、9、8、7、6……」
    「……」
    「5、4……」
    「…………」
    「3……、2……、1…………」
     ゼロ。そう呟き揺れる硬貨の動きを止める。アキヤは、特にそう変わりがないように見える。私はアキヤの目を真っ直ぐと見る。
    「気分は?」
    「あまり変わってないかな」
    「そう?じゃあ……、アキヤは、私の膝に寝っ転がりたくなる〜」
     来るかな、と私はわくわくしている。応えるように、アキヤは私の膝に本当に頭を乗せて横になり始めた。催眠術を抜きにしても、大切な相棒が私の膝を枕にして寛いでる姿はとても可愛らしく感じる。しかし、もっと色々な事を試したいと思い、アキヤの頭を一撫でしてから、起き上がって、と言った。アキヤは起き上がる。
    「アキヤ、どんな感じ?」
    「……催眠、かかってるかも」
    「えっ!そんな、かかってるって感じするの?」
    「少し、頭がぼやぼやする」
     もしかして、本当にかかってるのだろうか。そんな期待が膨らむ。テレビに取り上げられるくらいの催眠術だし、あのアキヤがそんな感想を言ってるくらいだ。
    「……アキヤ、テレビ消して」
     そう言ってみる。アキヤはすぐさまテレビのリモコンを見つけて電源ボタンを押した。しかしながら、これではアキヤが催眠にかかってるかどうかの判断は出来ない。催眠にかかっていなくとも、これくらいの命令なら催眠にかかったフリとして言う通りにする事が可能だからだ。もっと、フリだけでは出来ない命令を下して判断するしかない。少しずつ、命令をエスカレートさせていく。
    「私のティーカップの紅茶、飲んで」
     命令を下してから、流石に、間接キスくらいならまだフリでもできるかな、と思った。アキヤは私が使っていたカップを手に取り、残っていた紅茶を飲み干した。まだだ。どんな命令をすれば、本当に催眠術にかかっている事を証明できるだろう。実は、一番簡単な方法は思いついている。今からファミレスに行きたくなる、とか。どこか外へ行けというような命令を下して本当に外へ出たなら、本当に催眠術にかかっているという事になるだろう。だが、もし本当に催眠状態であるなら、アキヤはその通りに外へ行ってしまう。催眠術の効果を確かめる為だけに、追い出しのような行為をするのは避けたかった。
     アキヤがここに留まった状態で、フリだったら絶対に出来ない事で、催眠状態なのか否かが明らかになる命令。頭を悩ませる。一つだけ、見つかった。しかしこれは、私の賭けにも値するような重めの命令だった。……やるしかない。催眠術程度でこんな重大な命令を下そうとする私もどうかしている。
    「アキヤ。私の唇に、キスして」
     アキヤにとっても私にとっても、初めてのキスになる。恋愛的に好きな相手じゃないと、出来ない。しかも私達は女同士だ。フリだったら絶対に出来ないだろう。
     アキヤが私の頬に手を添える。……え、まさか。アキヤ、フリなんでしょう?頬に手を添えるのだって、きっとビックリさせる為の演出でしょう?アキヤ。そう思った瞬間に呼応するかのように、確かに、私の唇に温かいそれが触れた。ダージリンで流された筈の、甘い、イチゴチョコレートの味がする。私のファーストキスを代償に、催眠術の効果が証明された。本当だったんだ。
     私はそのまま訳も分からず、肩を押されてゆっくりと柔らかいカーペットの上に横になっていた。アキヤは私に覆い被さる形になっていた。アキヤの頬は上気していた。
    「あ、アキヤ……、本当に、催眠術にかかってるんだね……。ね、もうやめよう!催眠、解いてあげるから退いて……?」
     これで退いてくれる。後は催眠術を解くだけ。確か解き方は、もう一度5円玉を揺らして、かけた時と同じようにカウントをする事。ゼロになれば、解ける。これで、早くアキヤを催眠状態から。
    「……?アキヤ?ねぇ、退いて?」
     アキヤが、私を見つめたまま退いてくれない。そんな筈はない。先程立証された筈だ。アキヤは催眠状態にある。私の命令に逆らう筈がない。なのに、退いてくれない。
    「んッ!」
     呼吸が出来なくなった。アキヤに、また口付けられている。先程のような、触れるなんて軽いものではない。非常に重く、深く、苦しいもの。舌だって入ってきている。私の口内のありとあらゆる箇所を舌で触って確認する。そんな動き。私もアキヤも口の周りは唾液で濡れている。息だって荒い。自分で舌を入れてきたくせに、アキヤは随分と気持ちよさそうに蕩けた顔をしている。ずるい、と感じてしまった。私はアキヤを恋愛的感情として見ていない、と思いかけて、複雑な心境に陥る。本当に恋愛的感情を持っていないなら、催眠術の確認ごときにファーストキスを賭ける事なんてしなかった筈だ。
    「ぁ、……きや」
    「ごめん。ルファ」
     この目は、きっと、最初から催眠術になんてかかってなかった。フリだった。フリだったのに、どうしてここまでするの。途中で私に言えば良かった筈。実はフリでしたって。そう、思った。しかし、きっと私はもうわかっている。アキヤが私に嘘をついてまでここまでする理由を。私は、アキヤのこの想いにどう応えればいいのかだけ、わからない。逃げてしまいたい。私に催眠術を教えたテレビのナレーションを恨みたい。穏やかに流れる時間が好きだった。ただゆっくりとそばにいられるだけで良かった。それが今では、急速的に熱を帯びてしまっている。平和ボケした私には熱すぎる。逃げたい。
    「お願い」
    「な、に……」
     耳元で囁かれる、その次に放たれた言葉に、私は逃避してしまった。この熱の籠った瞬間を、ただの夢で終わらせてくれるのなら。

    「まだ、催眠状態、って事にして」

     このひとときの夢だけで、穏やかな時間が戻ってくるのなら。

    「……うん」

     目が覚めたら、ティータイムにしよう。何も、なかったから。
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