新任教師明智先生と前歴持ちの雨宮くんの話⑦母が愛人関係にあった男との子供を身篭ったという話は母方の親戚には知れ渡っていた。その頃には父親にあたる男は母を見切り音信不通となっていて、母の家族や親戚達は腹の中の子供を堕ろすように強く言ったらしい。当たり前だ。そんな乱れた関係から生まれた子供など、醜聞でしかない。
しかし母は、最後まで首を縦に振ることはしなかった。その子供を産むことを受け入れた。家族や親戚達の反対を押し切り、自分の力だけで腹の中にいる子供を守り通す道を彼女は選んだ。…選んでしまったのだと、散々嫌味たらしく聞かされた。
母は生まれた子供を愛していたと思う。色んな負担があっただろうに、母はその子供の前で笑顔を絶やすことはしなかった。いつでも優しくしてくれた。
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