なんかやべ~~のに憑かれたっぽいんだがカランカランカラン
勝利のファンファーレでもそこまで鳴らさねぇだろ、と大袈裟に鳴り響く福引のベルが最早憎い。
「一等大当たり!いや~~お嬢ちゃん凄いねえ!はい!景品のハワイ旅行券!」
「あ、はい、あはは……」
やめろ商店街のど真ん中でそんな大きい声を出すな。視界の端で「いいな~」「すご」など老若男女がこちらを見ている。ああ、もうこの町にはいられない。ヤコは胸の内でほろりと涙を流した。
ハワイ旅行券。本来なら飛び上がって喜ぶ物だろう。そう、本来なら。
ヤコは足早にその場を去りながら、バレないようにちら、と隣を見る。背の高い、和服姿のかなり不思議な雰囲気を纏う何かがこちらをジッと見ていた。その「何か」は浮いているようにスーっと自分についてくる。そう、「何か」は人ではなかった。その印を示すように、通行人が次々とすり抜けていく。
「(お参りなんかしなきゃ良かった……)」
ヤコは今すぐ泣き出したかった。
事の始まりは、進学先に引っ越してきた日のこと。土地勘を掴む為に町を探索している内、ひっそりと佇む神社に辿り着いた。真っ赤な橋の先に小さな小島のような場所があり、いくつか小川が流れ、小さな滝が外の川へと落ちていった。少し古びているのがまた良い雰囲気を醸し出している。良い場所を見つけた、と踏みいって「挨拶」の参拝をしたのだが。
その日から「何か」がずっとついてくる。泣きそうになりながらスマホで調べるものの解決策はなく。たまにいなくなるが気づいたらいる。ヤコはこちらが気づいている事を悟られぬよう、「見えないふり」をしたまま生活していた。その辺は弁え(?)ているのか、風呂やトイレには現れなかったのは幸いである。
初めは些細だった。宝くじには必ず何かしらアタリが出るようになった。福引も同じ。ついてるなあ、と思っていた自分を呑気だと今は思う。
そこからだ。段々とアタリがでかくなっていった。割引券。金一封。10万。100万円。国内旅行券。そしてさっきのハワイ旅行券。何か引けば必ずアタリが出る。
もうここまで来たら気づいた。隣に憑いてる「何か」のせいだ。何でかって、そりゃ福引だの宝くじ売り場の近くにいけばソワソワし「行って欲しいなあ」と言わんばかりの視線を向けられれば行くしかない。御札で顔見えないけど。
こんなにバカスカ当てていたら怪しまれるに決まっているのだが、何でかこの町の人は怪しみすらしない。寧ろ真っ直ぐ祝福してくる。そんな自分の考えとの落差にまた泣きたくなる。お祓いに行こうにも悪いものなど何もついてない、と言われ、しかも「何か」は誰にも見えないらしい。お手上げであった。
自宅のベッドで「ゔあぁあああ……」と唸りながらうつ伏せに倒れる。通帳には学生にあるまじき数の0が並んでいる。もうどうしたらいいんだ。いや、学費の不安はないけどそれよりよっぽどやべえのがいるのがやべえ。誰にも理解されず解決されないそれにヤコの限界は近かった。もういっそ、「何か」に聞きたい。
「何か」は近くにずっといる以外接触などはしてこない。本当にいるだけなのだが、こんな「異常」があっては安心できない。
「(誰か助けてクレメンス)」
ヤコはぐったりとそう祈った。
「○○のとこの学生さん、凄いわよねえ」
「××神様に気に入られてるんじゃない?」
「住職、良いんです?本当の事教えてあげなくて……」
「言ってどうする。神はどうにもできん。寧ろ下手に手を出しては拗れて面倒だ」
ヤコはまだ知らない。「何か」があの神社に祀られている神様である事を。前世で「先に逝って」おいてきてしまった伴侶であった事を。この町に前世の知り合いに良く似た者達がいる事を。
その神様がただ「よかれ」と思って「ちょっと当たりやすくしてあげた」結果があれなのだが、それを知らぬヤコには、過ぎた幸運はただの恐怖でしかない。
ヤコが前世の記憶を取り戻す日まで、あと……。
「いつになったらそれがしを思い出していただけるのでしょうか。……そうです、あの頃のように福引を回していただければ。ひょっとしたら、それがしが見えるようになるやも」
神様、あなたが隣に居てはアタリが馬鹿にならないんですよ。
(追記:カゲロウさんは自分が祀られている場所から通ってきています)