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    Lien0725

    @Lien0725
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    Lien0725

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    かなり前にスマホのネタ用メモでちょびっと書いて放置した奴をいじってみた

    百代の過客ガラガラと荷を引く音だけが山道にこだまする。ゆっくりと牽引し歩き続けるこのポポは、一体何代目だったろうか。
    花緒が切れた。この下駄も何度擦り切らしてきたか。
    ついに傘に穴が空いた。モンスターの素材といえど、といったところか。もう、作ってくれたあの人は居ない。
    見慣れた景色が変わっていく。人が変わっていく。時代が変わっていく。
    カゲロウは一人、かつてカムラの里であった場所を見た。あの頃の面影を、微かに感じる。だが、そこに居た彼らのうちのほとんどは皆、先に逝ってしまった。
    竜人族の悲しい定めである。どんなに親しもうと、人間は我らより寿命が短い。一体、今まで何人の人々が自分と出会い、そして老いて死んでいったのだろうか。

    身体が次第に言うことを効かなくなってきた。これが老いか、とカゲロウは感心した。
    「あなたが好きだと言ってくださったこの声も、こんなにしわがれてしまいました」
    目線が低くなっていく。世界が大きくなっていく。
    「竜人族って、お年寄りになると身体が縮みますよね。じゃあ、カゲロウさんが歳をとったら、きっと可愛いんでしょうね……あ、変な意味じゃなくて、その」
    時折蘇るあなたとの思い出も擦り切れていく。

    この身が縮んでいく。萎んでいく。ついに傘が持ち上げられなくなった。己の手を見る度、ぞわぞわとせり上がる恐怖に身もだえする日も少なくなかった。

    ある日。かつての面影を残し賑わう里を、目に焼き付けるように眺めた。
    「おじいさん、どこか旅にでも?」
    声をかけてきたのは恐らく里の住民の子孫だろう。どこか、かつての加工屋の一族の顔を思い出させる。
    「少し、遠くへいくのです」
    漆塗の箱を撫でながら答えた。中には、あるハンターが後生大事に身に着けていたものが入っていた。
    「気になりますか。いえ、秘密にするほどでもないのです。妻の形見のようなものですよ」
    あまりの年月に、すっかり色も薄れ擦り切れそうになってしまったけれど。どうしても手放すことも、捨ててしまうことも出来ずにここまで来ていた。
    「久しぶりに、里を見に来たのです。ええ、平和そうで何よりです」
    そう言って、老いた竜人族の男はよっこらせと立ち上がる。そして、そのままゆっくりとどこかへ歩いていった。


    その後の男の行方は、誰も知らない。





    深い深い、誰も立ち入らないような、どこかの山の奥。苔むした岩の上に、小さな人影が腰かけていた。
    「あなたが守り築いたものは、今も確かにありましたよ。きっと、これからも大丈夫でしょう」
    掠れた声は震えて、とても小さかった。
    「それがしも、ようやくそちらへ逝けます」
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