カミュ蘭練習開始の30分前。
スタジオの空気はまだ冷たく、照明もすべては点いていない。その中に、黒崎蘭丸の姿があった。
ストレッチを終え、軽く足を鳴らしながらリズムを取る彼の動きは一見、普段と変わらなかった。
だが、その額にはうっすらと汗。視線は定まらず、時折ほんのわずかに揺らいでいた。
「おい」
背後から、低くしわがれた声が飛んできた。
「龍也さん?」
「お前、一人か」
「はい。今日のメンバーだけの全体リハ、まだ全員揃ってないみたいで俺が一番に来ただけです」
龍也は足音を立てずに近づき、蘭丸の顔を一瞥する。
「お前さ、具合、悪いだろ」
「……は?」
「そういう顔してんだよ。何年一緒にいたと思ってんだ」
「……勘違いっすよ。ただ、ちょっと気合い入りすぎてんだけですって」
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