52hz 天狗の後悔を鬼は知らない。
互いへの感情に付けるべき言葉も知らない。目を背け、口を閉じ、思考に蓋をした。幾年も停滞したままの空気を吸って、吐いて、吸って。気が付けばここにいた。
真っ青な空に浮かぶ朱色が晴れ着を纏った男たちを迎え入れる。人と鬼のどちらにも為れず、どちらも捨てられなかった男の顔はこの場にふさわしくない野蛮な仮面に隠されたままだ。地上と根の国と、両方の色を背負った姿は派手で、悪趣味で、どうやったって理解できない感性をしている。だが、この上なくあの男らしいのも事実だった。
二人の背を押した風が楽しげに羽織の裾をはためかせる。織り込まれた金糸が陽の光を反射し、網膜を焼いた。やけに眩しく感じたきらめきから逃げるようにクラマは目を閉じる。
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