夜が優しくなるまで 静かな夜だった。
部屋の中はほんのりと暖かく、布団包まれた謝憐の呼吸がかすかに揺れていた。
__眠れない。
理由なんてものはなく、ただ、ただ、眠れない夜だった。
瞼を閉じても、意識の奥が微かにさざ波のように騒いでいる。
心に引っかかる棘のようなものがありそれが痛いわけでも、昼寝をしすぎたわけでも、泣きたい夜なわけでもなくて、ただ意味もないままに謝憐の眠りを邪魔していた。
そんなときだった。
隣から布団の擦れる音がして、謝憐の愛する伴侶が呟いた
「……兄さん、まだ起きてたんだ」
その声は囁きのようにやわらかくて、でも、しっかりと耳に届く。
「……うん、ごめん。起こしちゃったかな?」
「いいえ。気配でわかります、兄さんが眠れていない夜は」
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