人をダメにするソファ◆ぺろとぬら ピンポンと静かな屋敷に、チャイムの音がやけに響く。ここの所頻繁に聞いているな、とぬらは一人ごちる。それに凡その予想はつく。ぺろが何かをネットショッピングしたのだろう。バタバタとぺろの忙しない足音を聞きながらぬらはズズ、と熱いお茶を啜った。
◇
「なんだこれは」
ぺろが何を購入したのか冷やかしに来たぬらは襖を開けて目に入ったものに少し驚く。
広いスペースにドンと大きなクッションが置かれてたのだ。これは所謂人を駄目にするソファなるもので、その上にはふかふかの柔らかさにダラっと沈むぺろがスマホを見ながら座り寛いでいる。
その様子にぬらはイラっとしてしまうのは仕方のないことだろう。
ぬらが来た事に気づいたぺろはスマホから目を離してそちらに向く。
「フゥン、新しいクッションを買ってみたんだ」
「また随分大きな…」
乗ってるぺろはどうでもいいが、ぬらはその手触りの良さそうなソファには触れてみたくなる。いつも通り上品な足取りでソファに近寄ると少し屈んで、柔らかいふわふわした感触のそれに手を軽く押すようにして埋める。
「手触りは悪くないな」
「そうだろう?欲しかったんだ、これ」
ふふ、とぺろが笑うのに腹が立つ。
「退け、僕も座りたい」
「えっ、それが人に物を頼む態度か」
ぬらはぺろの膝をぺちぺち叩いて退くように促す。
「これは俺が買ったんだぞ、もっとマシな言い方は」
「知らん、僕が退けと言ったら退けよ」
何を言ってもこれ以上改善はされないぬらの態度にぺろはため息をつく。
「はぁ、解った。これには座り方のコツがいるんだ、だから前に立ってみてくれるか?」
「コツ?何か知らんが変な事はするなよ」
余程座ってみたいのか、普段なら聞かないぺろの言葉にぬらは素直に従い言われた通りにソファの前に立った。
ぺろは少し腰を浮かすとぬらの腰に抱きつくようにして、グイと後ろに引っ張った。
「うわっ!」
ぬらはバランスを崩して、そのままぺろの脚の間に抱きしめられた状態で座る体制になる。
「おい!何してるんだッ!」
「座りたかったんだろう?」
ぺろはいつもやられてるお返しに、少し意地悪したくなったのは本音だ。
ぬらはソファに2人分の体重で沈み、なおかつ後ろから手を回されているから身動きが取れない。背もたれはぺろだが、触り心地と同じようなふかふかした座り心地で確かに気持ち良かった。だが密着したぺろの体温に居心地が悪い。
「…ふん、確かに座り心地は悪くないな」
「気持ちいいだろ」
「お前が居なければもっと良かったな」
慣れっことは言え本心からの言葉にぺろが少し傷つかない訳ではない。
「君がそう言うならもっとこのままでいようか」
ぬらの肩口に顔を乗せさらに密着すると、付けている香水の甘いような爽やかな匂いにぺろはいっぱいになる。
「気色悪い事を言うなッ!」
ぬらは無理やりその腕から抜け出そうと試みたがやっぱり起き上がりはできない。数回試したが早々に疲れ、もう諦める事にした。
「このまま昼寝でもしようじゃないか」
ぺろに後ろに引き倒され、不本意ながら身体の上に重なるようにして寝転がされる形になってしまう。
「死ね、お前だけ寝てろ」
ぬらが言葉をかけるがぺろの反応は無い。
何故かこの抱きしめられた腕はがっちりホールドされているし、暴れるだけ疲れると諦めた。
起きた時の事は跡で考えればいいかとぬらは思い、目を瞑った。