【文仙】鍛練のはじまりのその前の段 潮江文次郎が裏山から忍術学園に戻ってきたのは、食堂からランチのいい匂いがする頃だった。午前の実技の授業を終えて空腹の体は勝手に食堂へ向かう。一年い組の実技の授業で定期的に行われている裏山からのランニングは決まって昼前にあり、ゴールした人からランチに行っていいことになっていた。ランニングと言っても、もちろん途中に仕掛けられた罠や暗号を解く必要があるものだが、コースが険しい以上、足が速くて体力のある生徒が有利であることには変わりない。必然的にランチのメンバーはほとんどいつも一緒だった。
──仙蔵、今日も遅いなあ。
文次郎はランニングコースを振り返った。同室の仙蔵はまだ戻ってきていない。体力のない仙蔵は、この授業ではいつも最後尾グループで、ランチの時間もギリギリだ。だから、いつも置いていくことになってしまう。
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