「詩苑って呼んだらいいのに」
彼はいたずらにそう問いかけてくる。その言葉にこの世界にぽつんと残されたあの日の白々しいほどの爽やかな青空が、今でも彼の背後にあるようだった。
今でも彼の神々しさは失われていない。光を受け透ける白い髪も、月のような濁りのない金の眼も何一つ変わらない。昔から彼はこうだった。
この世の汚い部分をいくつも見たはずなのに、真っ直ぐに前を見つめ世界を愛そうとする。悲しみに暮れ、自分をも恨み呪いそうになっていた小さな私ですら、愛しげに見つめてきた。
ようやく息が出来た気がした。彼が私の幸せを祈ってくれた瞬間、初めて息ができた。この世界の空気を胸いっぱい吸い込んで、世界と自分が溶け合って、初めてここに自分がいる、生きていると思えた。
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