にれくんにぞっこん!/すおうさんにぞっこん!【にれくんにぞっこん!】
祭囃子のなかに、浮かれている人々の声が混じる。それらが耳をくすぐり、蘇枋の心にも移っていく。
いや、きっと正確にはそうではない。蘇枋の隣には、浴衣姿で恥ずかしげに頬を染めた楡井が歩いていた。いつもの元気いっぱいな様子とは少し違い、うつむきがちだ。人の波を避けるために身体を寄せると、互いの手の甲が触れる。そのたびに楡井の肩はおおげさに揺れた。
よかった、オレだけじゃない。
蘇枋はこっそりと息を吐いた。以前にも風鈴のみんなと夏祭りに行ったが、今日は楡井とふたりきりだった。あたりが暗くなるにつれて、屋台の灯りが眩しく感じられた。それに応じて人の数も増え始めて、この様子ではいつ楡井がはぐれてしまうか分からない。蘇枋はもっともらしく自分の中で理由をつけたが、ただ楡井と手を繋ぎたかった。
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