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    nyaaaaaaansan

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    nyaaaaaaansan

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    日々ご飯を食べるだけのほのぼのobkk
    ※上🥷if
    ※平和時空パラレル

     朝と夜にはすっかり秋の気配が忍び寄ってくる九月の後半。
     朝起きれば少し肌寒いか、と思うことも多くなってくる。窓さえ開けていれば寝苦しくないのは大助かりだ。しかしそれも太陽が猛威を振るわない時間の話であり、直射日光が照り付ける昼間はまだまだ汗ばむ時期なのだ。俺は首筋や腕に大粒の汗を浮かべて木ノ葉隠れの里の目抜通りを歩いていた。両手にはカカシに頼まれた買い出しの品がこれでもかと詰まったビニール袋を持っている。
     出来るだけ日陰を選んで歩くがやはり限界はあった。そもそも日中は未だに吹いている風が生温いのだ。これでは気温が下がってもあまり意味が無い。
     通りの終わりの角を曲ると、カカシの住むアパートが見えてきた。錆び付いた金属製の外付け階段を登る。カンッカンッと軽い音が残暑の中に霧散していく。

    「こんな時間に買い物行けとか鬼かよ」

     文句を言いながらも断ることをしないのは惚れた弱みだ。あとは普通に尻に敷かれているのもある。
     カカシって普段おっとりしてるけど怒るとめっちゃ怖いんだよな。少し前、知らずに秘蔵の酒を飲み干してしまった時に背中から真っ赤なオーラが見えた。あんなのはクシナさん以来だ。

    「帰ったぞカカシー」

     苦労してポケットから鍵を取り出し玄関を開ける。
     冷房の冷たい風が俺を出迎えてくれた。玄関先に買ってきた品物をドサリと置けば奥の部屋から「おかえりー。買い物ありがとうね」とカカシの間延びした声が聞こえてきた。
     フローリングの床を歩いてくる足音が聞こえると片手に水が入ったコップを持ち、珍しく口布をしていないカカシがやって来た。「はいどうぞ」とコップを手渡される。キンキンに冷えたそれを一気に煽り息を吐いた。

    「おっさんみたい」
    「仕方ねえだろ。マジで外暑いんだって」
    「年々残暑が厳しくなってるよね。オレたちが子供の頃なんて今の時期はもう長袖だった気がする」
    「いや分かる。マジ温暖化って感じする」

     中身の無い会話をしているとカカシがもう片方の手にまだ何かを持っていることに気が付いた。さっきは水に気を取られすぎて見えなかったようだ。

    「何持ってるんだよそれ」
    「あ、これ?」

     興味の無さそうな声音をしながらも、よくぞ聞いてくれたと言っている瞳。カカシは俺の前だと感情をモロに出してくるから分かりやすい。他の人には借りてきた猫みたいに威嚇するというのにだ。
     俺だけが知っているカカシ。
     若干の優越感を覚えて口元が緩みそうになる。

    「栗だよ。今日はね栗ごはんにしようと思ってね」

     カカシが手を持ち上げると赤いネットに包まれた栗が見えた。小ぶりだが色艶の良いそれに高級品なのかもしれない、と勝手に想像する。

    「昨日の任務終わりに依頼人からお裾分けして貰ったのよ。その人栗農家の人で、大名にも卸してる有名どころなんだってさ」
    「へー。やっぱりあれか。栗拾いとかの栗とは違うのか」
    「全然違うと思う。だってこれだけで三千両するってさ」
    「たっか」

     驚きのあまり語尾を跳ね上げるように叫んでしまった。

    「ま、それだけ品質が良いってこと。流石にタダで貰うのは忍びなかったけどね」
    「でも好意を無碍にするのは良くないからなー。難しいところだ」

     冷蔵庫に買ってきたものを詰め込んでいく。牛乳は賞味期限が遅いものを奥に、調味料はドアポケットへ丁寧に陳列させる。同時に残り少ないものや賞味期限の近いやつは廃棄袋に入れる。後で生ゴミと瓶、燃えないゴミに分別するだめだ。
     カカシは別置きの小型冷凍庫に冷凍食品を詰めていた。短い距離であっても暑さの影響か外袋は水浸しになっている。次からは保冷バッグを持って行った方が良いかもしれない。

    「カカシ、何か使う食材とかあるのか」
    「うーん。とりあえずは栗ごはん作るけど他はほうれん草のおひたしと味噌汁、冷凍しておいた鮭の塩焼きも用意しようと思うから。お味噌と醤油、みりんとほうれん草、豆腐、お揚げだけ出しといてよ」
    「あいよ」

     手際よく指示されたものを机の上に置いていく。その間にカカシは赤いネットから栗を出す。栗ごはんなんて作った事のない俺は興味津々にカカシの後ろから覗き込む。
     机の上に転がる茶色の実。乾いた布巾で丁寧に拭き上げては、色艶の特に良いのを剪定してまな板の上に並べていく。まるで隊列を作るような光景が可愛らしいとさえ思った。

    「生栗を包丁で剥く時はこのざらざらしたそこの部分を切り落としてから側面の平らな面を切るの。それが終わったら渋皮を剥いて水に漬けておく」

     説明しながらもカカシは器用に栗の下処理を終わらせていく。その手際の良さに舌を巻いた。幼少期から自炊するのが当たり前の生活をしていた奴は料理スキルが一般人とは比べ物にならない。

    「オビトはお米研いでてよ。あ、お米は三合で量って」
    「りょーかい」

     見ていて分かったが栗を包丁で剥くのは難しそうだ。多分料理初心者の俺では怪我をするかもしれない。だから簡単な作業を当てがってくれたのだろう。
     米ぐらいなら俺だって研げるしな。
     ステンレスのボウルを台所に持って行き三合の米を量りながら入れていく。終わったらシンクに移動して研ぐ工程に入るが、一度目の水はすぐに捨てる。ばあちゃんに教えてもらったのだけど、こうすれば糠の匂いが米に移らないのだ。
     二度目の水は少なめに。手のひらで揉み込むようにして、けれど優しく研ぐ。水が白く濁ってきたらザルにあげてまたボウルに移し替えては同じことの繰り返し。これを五回ぐらい繰り返すと、水もうっすらと白色が残るぐらい透明になってきた。
     ここまでくればザルに一気に移して水気を切る。少しでも水分が残るとふっくらしたご飯にならないから念入りにだ。そうして炊飯釜の中に洗った米を入れて指定された分量の水を入れればあとは一時間ほど置いておく。
     今回の米は古米だから少し長めの方が良いかもしれない。

    「カカシ終わったー」
    「丁度こっちも一通り終わった感じだよ」

     カカシが持ってきたボウルには皮の剥かれ白色の実を晒した栗が幾つも水に沈んでいた。結構な数なのにこんな短時間で終わらせるのは流石としか言いようがない。

    「栗も一時間は浸しておかないとだからその間に他の料理を終わらせちゃお」
    「残った栗はどうすんだよ」
    「今度みんなを呼んで焼き栗にしよう。オビトが業火球の術使えば一瞬でしょ」
    「俺は便利な調理道具じゃねぇけどな。まぁ良いや。じゃあほうれん草茹でとくわ」
    「ん、ありがとうね」

     収納棚から手頃なサイズの鍋を取り出すと塩を少し加えた水をコンロにかける。沸騰させるまでの時間でほうれん草の下部分を切り落として流水で洗う。あらかた土が落ちたのを見て、ぐつぐつと気泡が浮かぶ熱湯に茎の下部分を少し茹でてから全体を落とす。
     カカシは味噌汁に使う出汁パックを切り分けてすぐ使えるように準備していた。手際が良い。

    「それにしても不思議だよな。カカシの味噌汁ってめっちゃ美味しいのに、普通の家で作る材料と一緒なのって」

     菜箸で濃い緑色になったほうれん草を取り出して先に用意していた冷水の中に入れる。
     カカシの味噌汁は木ノ葉でも随一の美味しさだ。老舗の定食屋や高級旅館で出されるものでさえ、彼の足元には遠く及ばない。

    「うーん。オビトへの愛、とかじゃない?」
    「お前そんなくさいセリフ言うのかよ」

     くすり、と笑ってキッチンペーパーの上にほうれん草を置いて優しく水気を切る。食べやすい大きさに切ってから手で押さえるようにしてもう一度水を絞り出す。これを忘れると水っぽい仕上がりにってしまうのだ。
     予め用意していたタッパーに先ほどのほうれん草を綺麗に並べていく。醤油とみりん小さじ三杯ずつ注ぎ入れて菜箸で軽く解しながら味を馴染ませていく。
     あとは冷蔵庫に三十分ぐらい入れておけば完成だ。
     俺がほうれん草のおひたしを作っている間に、カカシは豆腐とお揚げを適当なサイズに切って出汁を取り終えた鍋の中に入れていく。

    「そういやご飯炊いてないのにここまで作って良かったのか?」
    「ま、味噌汁はまた温めれば良いし、おひたしもとりあえず冷蔵庫に入れておけば問題ないからねー。それよりも炊き立ての栗ごはんの方が食べたいでしょ」
    「それは一理ある」

     味噌汁が一煮立ちするのを待つ間に水に浸しておいた栗と米の様子を見る。灰汁が抜けてきたのか透明だった水は若干白色に白濁していた。

    「栗も良い感じだし下茹でしちゃおうか」

     ほうれん草を茹でた鍋にもう一度水を入れて沸騰させる。主婦が本職であるような効率重視の動きに、忍びを引退したら料理屋でも始めれば良いのにと本気で考える。ちなみに俺はホール担当だ。

    「下茹ですると残ってる渋皮とかが浮き上がってくるし、炊飯したのにまだ固いみたいな失敗を防げる」
    「お前、立派な料理人になれるぞ」
    「ほんと? オビトに言ってもらえて嬉しいねー」

     喜色を滲ませる口調で言われると俺も満更ではなくなってくる。しかも強烈な美貌を放つ素顔でへにゃりと笑うのだから、俺の恋人可愛い状態がずっと続いているのだ。
     栗ごはんが出来るのが先か、心臓が尊いの供給過多で止まるのが先か。どちらにせよカカシが隣に居たら良いか、と思うあたり大分拗らせている。

    「はい、下茹で終わり。今回はそんなに渋皮は付いてなかったからそのまま炊飯器に入れちゃおう」
    「塩はどれぐらい入れるんだ」
    「指で摘むぐらいにしといて」
    「はいよ」

     言われた通りの分量の塩を入れて掻き混ぜる。その上に若干黄色みのかかった栗を並べていく。既に美味しそうであった。

    「炊飯時間はいつも通りで良いから少し休憩して鮭はその間に解凍しちゃお。すぐ出来るから炊き終わってから焼いても間に合うしね」
    「それもそうだな」

     味噌汁の火を止めて、小型の冷凍庫からジプロックに入った冷凍鮭の切り身をボウルに張った水に浸す。流水解凍であればムラなく解凍出来るから家でもよくやる。俺は凝った筋肉を解すように背伸びをしてからコップを二つ用意して麦茶を入れた。
     まだまだ眩しいぐらいの陽光を撒き散らす外を眺めてカカシと他愛のない話をする。彼が時折笑いながら聞いてくれるのが嬉しくて時間を忘れそうになるぐらい話し続けていると、ピーと炊飯器から音が鳴った。

    「ありゃ、オビトの話もっと聞いてたかったけど炊けたみたいだーね」
    「俺の話ならいくらでも聞かせてやるから安心しろよ」

     そう言えばカカシはまた向日葵みたいに笑う。こんなの好きになるしか無い。
     熱くなる頬を誤魔化すようにボウルの中から鮭を取り出してキッチンペーパーで余分に出た水分を拭き取っていく。

    「フライパンで焼くので良かったか?」
    「うん。それで良いよ」

     カカシの返事を聞いてフライパンをシンク下の収納から取り出す。サラダ油を引いて熱していると、塩で味付けをした鮭をカカシが差し出してきた。熟年夫婦のような連携技である。
     油が熱するのを待ってから中火に切り替えて切り身を並べる。焼き色が付いたのを確認して裏返し、蓋をして弱火で五分焼く。これで美味しい焼き鮭の完成だ。疲れている時もこれぐらいなら出来るから、俺たちの食卓のエースだったりする。
     炊飯器の蓋を開ければほんのりと栗の甘い香りが鼻腔を擽る。どうやら上手く出来たみたいだ。
     しゃもじで栗ご飯を混ぜているとカカシも味噌汁を温め直している。それを横目に茶碗に栗の混ざったご飯を盛り付け、焼き鮭を蚤の市で買った皿に乗せる。ほうれん草のおひたしは任務で行った砂隠れの里で一目惚れした手作りの器。
     どれもこれもカカシと一緒に見繕ったものだ。
     そう考えると、俺の日常というのはカカシによって形作られていることが分かる。彼の手が加わったからこそ今の俺になっているのかもしれない。

    「お待たせー、早く食べよ」
    「めっちゃ腹減った」

     食卓に次々並べられる料理たち。
     待ちきれずに椅子に座れば、真正面にはカカシが悪戯っ子を諭すような顔をして、でも本当に優しい表情を浮かべて椅子に腰掛ける。どちらともなく同時に手を合わせて「「いただきます」」と言った。
     箸を手に取ると本日の主役である栗ご飯を口に運ぶ。塩っけの効いた白米と栗の甘味が合わさって食べる手が止まらない。

    「カカシ! これめっちゃ美味いんだけど!!」
    「当たり前でしょ。誰が作ってると思ってるのよ」
    「そりゃな、カカシが作るご飯は世界で一番美味しいとは思ってるけどさ。これは予想以上だわ」

     匂いに味に食欲が刺激されて箸を動かす手が止まらない。味噌汁、焼き鮭、おひたし、栗ごはんと交互に食べ進めていく。
     最近の子供はジャンキーな味付けが好きでこういった素朴なご飯を嫌がると言うが、俺からしたらあまり理解出来る話ではない。濃い味付けが美味しいのは分からなくもないが、あれを食べるならカカシの料理を食べていたい。どう考えてもこっちの方が美味しいし。

    「やっぱカカシの味噌汁めっちゃ美味しい。俺のために毎日味噌汁を作って欲しい」
    「ふふ、何それ。プロポーズ?」
    「そうだけど。てか俺はお前と結婚するの前提で生きてるから。そこんところ理解しておけよ」

     冗談みたいに受け流そうとするカカシに釘を刺すと、途端に彼の顔が真っ赤に染まる。当たり前だ。何年この想いを燻らせ続けてきたと思っているんだ。
     それにうちは一族として執着した相手は絶対に手に入れる。それがどんな手段であろうと。

    「オビトはオレで良いの……?」
    「カカシじゃなきゃ嫌だ」
    「……。そ、分かった」

     こいつのことだから、俺との関係は一時的なものにしなければとか、オビトは女性と結婚して家庭を持って欲しいとか無駄なことを考えているのだろう。が、そんなことはこの俺が許さない。
     焼き鮭を口に放り込むと柔らかな身がほろほろと崩れる。すかさず栗ごはんをかきこむ。
     飯なんて栄養補給の一貫ぐらいでしか認識していなかった俺に、食べるという幸福を植え付けたのはカカシだ。そんな存在を手放すなんて、愚かなことをする訳ないだろう。
     黙々と食べるカカシをチラリと盗み見る。
     口の端にご飯粒が付いているのを見つけてしまい。机の上に身を乗り出してその口元を舐め取った。

     
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