いい色になったとか絶対に思ってない「……フフ……そろそろヤバいかも………」
請け負った弁護依頼に向け集めた資料を読み漁り出してから恐らく数時間が経過している。別に時計も何も見ていないが、こういう時先に根を上げるのは決まって僕じゃなくてダンテだ。文系を自称しながら僕より活字に強くなくてどうするという訴えはとうの昔に「書くことと読み続けることはまた別物なのだよ小僧」と返事が出されていた。それは反論にしては弱いんじゃないかネ、仮にも弁護士だというのに。
モリアーティ、私気分転換にワインが飲みたい。いつもならそんなことを言い出してふらりと部屋を立ち去ることがほとんどだというダンテは今日は珍しく限界を訴えてからソファを立ち上がる気が無いらしい。ヤバいという訴えを出してから数分、手に持つ資料の奥の人影が動く気配が感じられない。
──妙だな。
いくら運動が嫌いとは言えど僕達はあくまでもサーヴァントだ。日頃生活できる程度の魔力は誰かしらが作る料理で賄っているし、特に目立って魔力を行使した機会も無かった……いや、あったな?
先日、暴食区で請け負った依頼。依頼内容自体は普段通りのはずだったが、誤算だったのは近くに普段ならこの辺りで見ないはずの第三階梯の天使がいた事だ。はぐれたんだか言いつけられたんだか知らないが、当然目をつけられた僕達はどうにか撃退しようとして──いつの間にか増えていた増援に翻弄される羽目になったのだ。
結果的にどうにか依頼をこなし活動資金の足しに出来たはいいものの。何度か宝具を使用し地獄の門を開いていたダンテにとって、魔力という意味での負荷はなかなかのものだったに違いない。キャスターでもない身で召喚されておきながら使い魔を酷使するなんて、余程のマスターがそばに居たとしても魔力に影響が出るに決まっている。
どうもこうも言ってられない。ここでコイツに居なくなられるのは僕の、否この特異点の問題にも関わるだろうということは数学的な直感が告げている。一旦様子を伺って、どうってことがなければ放って休ませればいいか。そう思い、キリのいい段落まで目を通しきってから資料を机の上に置いて目に入ったのは。
「おい、ダンテ…………って、なんだネその顔色は!」
「フフ……魔力不足……」
ソファに横になり、ぐったりとした相棒はどう見ても顔色が悪い。元々ぴんぴんと元気そうな顔を見せるタイプじゃあ無いが、毛先に焔を灯したような黒く長い特徴的な前髪の下から覗く顔はどうみても青白い。醸し出す雰囲気といえば今にも退去しますと言わんばかりで背筋がゾッとする。
「もっと早く言いたまえ!そういうことは!」
「君との相棒も、ここで解散かな……」
「ッ!そんな勝手な真似、僕が……!」
許さない。半ば無意識、勢いのまま出かけた言葉をハッと飲み込む。──今、僕は何を言おうとした?
詰め寄りかけていた身体がぴたりと静止した違和感にダンテも気づいていたのだろう。長いまつ毛の下のグレーが僕の方をじっと見ていた。普段はあれだけぽわぽわとしているくせ、こういう時にはやけに的を着いた理性的な発言をする。ダンテにとって僕はあくまで小僧として見られているとやけに自覚させられるのが気に食わない。
「じゃあどうするんだい?足りない魔力を補える程のものはここには──」
飯を持ってくるから無理矢理にでも食えだとか、そういうことを言ってられる場合じゃ無さそうなのは分かっていた。とにかく、早く。サーヴァント同士で魔力供給だなんて別におかしい事じゃない。問題は、その手段をどうするのかという話だ。
依頼の報酬として受け取っていた聖杯の雫は残念ながらこの部屋のリフォーム費用のアテにしたせいで手元にない。とにかく、コイツが居なくなることだけは避けたかった。特異点のため、法律事務所のため。……それから認めたくないが、僕自身のために。仮にも相棒としている男が目の前で居なくなったら気分悪いのは当たり前だヨ。
「僕が、いるだろう」
「え、」
返事も待たず、ソファに横になったダンテの前にしゃがみこむ。生憎今思いつく手段はこれくらいだ。重苦しいだろうにかかったままになっているケープの上から両肩を掴んで顔を寄せる。
「モリアーティ、君は……ッ、ん」
「ふ、………んン…っ」
触れた唇は思いのほか冷たくて想像よりずっと柔らかくない。未来の僕はきっと数多くの経験をこなしていたのだろうが、残念なことにこれは今の僕にとってのファーストキスだ。真正面から唇を合わせようとすると鼻がぶつかって邪魔だとか、こんな間近で他人の顔を見る日が来るとはなんて事を考えて意識を逸らす。なるべく特定の相手を意識してはいけないと直感が告げている。
触れ合うだけで魔力を流せれば良かったがそうじゃないのは聖杯から与えられた知識で知っていた。魔力供給をするなら直接粘膜を触れ合わせ、魔力を含んだ体液を流し込む必要があると。粘膜を触れ合わせるなら。知識に流されるように薄く開かれたままのダンテの唇を縫って舌先を捩じ込む。生暖かい、ねっとりとした甘さに包まれて身体が震えた。
最初こそ動揺のままグレーの瞳を大きく見開いたダンテも、空気を読んだのか知らないが直ぐに目を閉じて僕を受け入れてくれた。こいつがじっと目を見つめてくるタイプでなくて良かった。魔力を供給する以前に恥ずかしさで耐えられなくなる自信がある。
舌を押し進めた先で、ぬるりとした何か硬いものに触れる。僕のそれと変わらないくらいの熱さのそれがダンテの舌なのだということはすぐに分かった。体温が冷えていても、未だに咥内は僕と同じぐらいの熱を帯びているらしい。恐る恐る、できる限り差し込んだモノを触れ合わせるようにダンテの舌に這わせる。絡めとる、などという上等テクニックは知らない。今この瞬間、別にテクニック等必要では無い。断じて、少しでも快楽を与えてやれれば良かったのだろうかなんて思って無い。
僕のものを伝わせるように唾液を送り込む。直接粘膜が触れ合っている舌と、流し込まれていく唾液。こく、こくとダンテの喉が動く音がする。
「ぅ……ふ、は……ッ、ん」
ぢゅる、ぴちゃ。静かな部屋に水音が響く。すぐ近くの音を拾ってるのか、それとも思ってる以上に音を立てているのかの区別もつかない。緊急事態だ、このボロアパートの他の部屋に音が漏れてなければ良い。
魔力を送り初めて少し。体液からの魔力供給何ぞたかが知れてるとはいえ、枯渇状態にあったダンテからすれば十分な供給を得られるものだったのだろう。供給を行う前に比べればずっと顔色も普段に近く戻っていた。むしろ、頬に至っては普段よりも赤いくらいだ。
そろそろいいだろう。足りないというようなら時間を置いてまた供給してやればいい。そうして口を離そうとした、その時。
「お、いッ!ン、はッ……ぢゅ、ん、んッ」
「ん、ふ……む、んん……っ、は」
いつの間にか、だらんと垂れていたはずのダンテの手が僕の後頭部を抑えるように後ろへ回っている。驚いてダンテを押しのけようとした僕を引き止めたのは、いつの間に開いていたのかばちんと合ってしまったグレーの双眸だった。普段よりも濃く見える色を宿した瞳に吸い寄せられたまま、途端に動けなくなった僕をいいことにあっという間に形成が逆転する。
さっきまでふたつの舌が重なりあっているだけだったはずが、いつの間にか明確な意志を持ってダンテの舌が僕のそれに絡みついていた。差し込んだままの舌をぢゅうと吸われ、腰の辺りにズクンと重い何かがのしかかったような快楽が走る。呼吸の仕方などとうに忘れてしまった僕はただダンテに好き勝手弄ばれていた。
弄ばれてからどれだけ経ったのかも分からない。一通り僕を困惑させて満足したのだろう。ちゅ、と先程までとは打って変わって可愛らしいリップ音を残してダンテの顔が離れて行く。はあ、はあ。ようやく取り込めた新鮮な酸素に肩で息をしている僕を見て、随分と顔色の良くなったダンテが僕の下で笑った。
「フフ………モリアーティ、キス下手。そんなんじゃ紳士の名が廃ると思う……」
「ッ!!君なあ!さっき渡した魔力全部返して貰うぞ!」
「それは勘弁……ごめんなさい」
「分かったならいいがネ!本当に心配したんだぞ、僕は」
「うん……しばらくはちゃんとご飯も食べるようにする」
「好き嫌いもやめたまえヨ」
冗談を言えるほど回復していた姿を見てほっと胸を撫で下ろした。とはいえ、あくまでも応急処置程度にしか過ぎないものだが。ないよりはマシだ、ウン。キスが下手と言われて落ち込んでなど無い、絶対に。
本当に君といるとイレギュラーばっかりだ。落ち着かない。だがそれを存外心地好く思っているだなんて絶対に言ってやらない。悶々とする僕に、ふとじいっと目を向けているダンテに気がつく。普段よりも鈍い色をしたグレー。君の目の色、そんなに濃くなかったような……
「ありがとう、モリアーティ」
「……まあ、僕は君の相棒だからネ」
「…………フフ……」
結局。なんだか二人きりが居心地悪くなった僕は勢いよく廊下に飛び出ていったものの。鉢合わせた天草四郎によって鏡を見ることを勧められた僕は、鏡に映る普段よりほんの僅かにグレーの混じった瞳を見て慌てて共同部屋に戻る事になったのだった。
から始まる付き合ってないのに距離爆近でグラナート組からは付き合ってると思われてるしカルデア組来てからはしれっと知らんとこで「アイツらの部屋入る時はちゃんとノックしないとダメだよ〜?いろいろと危ないから〜」て助言されてるモリダン(モリンテ)みた〜〜い
モは相棒以上の独占欲みたいなの無意識のうちで勝手に抱え込んでるけど「ダンテが好き?まさか、ダンテが好きな相手はベアトリーチェただ一人だヨ!仮に好きだとしても僕に付け入る隙は無いからネ」とか言っちゃって〜も〜!付き合え!