探偵阿虎俺の名はトラ。
ひょんなことからXの正体を知ってしまった俺は、特に誰からもそんなことをしろと言われてはいないが、あの日あのとき以来、何故か…何故かはわからないが、とにかく奴の行動を監視することにした。
《6時》
起床。あのなんとも言えないアイマスクを外し忘れてベッドから転がり落ちている。
朝食。パンに塗るジャムを切らしていたようだ。
《7時》
ランニングウェアに着替える。
おいおい、雨降りそうだぞ。
《7時10分》
ほら言わんこっちゃない。
ポツポツ来たのでランニングは中止するようだ。
ベランダから空模様を確認した奴は、手にかかる雨をタオルで拭って欠伸をしながら戻っていった。
意外と面倒くさがりなのか?
まあ俺も本降りが来たら避難しないとな。
《9時》
準備して出勤。結局雨は降らずだ。毛が濡れると気持ちが悪いから助かった。
あの満員電車というものは地獄だと思う。
奴ならパチンひとつで会社前だろうに。
正体を隠す生活も大変だな。
《10時》
始業。フロアの同僚に小さく手をあげて挨拶…も、そこそこに、デスクへ。
他の同僚はまだ話しをしたりして上司に何か言われているようだが、奴は知らん顔でパソコンを開いている。
仕事はしっかり真面目だな。
《12時》
チャイムが鳴って、昼食。
仕事が立て込んでいるのかコーヒーとスティックタイプの携帯食4本…1本あたり結構重量あるぞあれ。
4本も食うのか?
……言っていたら俺も腹が減ってきた…が、引き続き監視を続ける。
夜にシンヤーのとこに行ってうまい飯をもらおう。そうしよう。
《17時》
……………は
まずい、西日があったかくて昼寝しちまった
あいつは…
……よ、よかった。まだ仕事中だ…
肩を払って大きく伸び、首を回す。
どこかに消えた…と思ったら、ジュースか。
心做しか、髪も朝より乱れている。
座りっぱなしじゃあ確かに疲れるな。
《18時45分》
ちらちらと腕時計を確認する行動が増えてきた。
何だ?誰かからの連絡でもあるのか?
《19時》
定時で終業。なんだ、時計見てたのはそれのカウントダウンか。
周りのスタッフを尻目に、準備していたらしい鞄を持って早々にフロアを出た。
《21時》
途中何軒か店に立ち寄り夕食などを調達して帰宅。
何を買ったかは分からなかったが、危険な感じではないだろう。
真っ暗な部屋は空気が冷たそうだ。
月明かりが疲れた表情に影を落としてる。
こいつもシンヤーみたいなやつがそばに居ればいいのに。
ああ……そろそろ帰ろうか。
流石に腹が減っ…《Snap》
「やあ、1日おつかれさま。何も食べてないだろ?ささみの茹でたやつがあるけど、どうかな?」
!?なんだ、ここは、どこだ!?
「ほら、ちゃんとジャムも買っただろ?」
あんた、気づいて…
「当たり前だ。こっちは仕事してるってのに日向ぼっこして気持ちよさそうに寝てたろ。前に襲ってきてた奴らも今日は狙いやすかっただろうなぁ」
…………!また、助けられたのか……
「まあ俺も、無防備な動物がいじめられるのを見て見ぬふりってのは寝覚めが悪いからね」
…すまない………。
………なあ。すまないついでに、ささみ。
食わせてくれ。
借りは作りたくないから少ーーしだけ、モフらせてやる。
「ふふ、お利口さんじゃないか」
《Snap》
《22時30分》
俺の名前はトラ。
孤高のヒーロー犬だ。
だが今は…少し悔しいが、頭を撫でるこいつの手が大きくて、何故か…何故かは分からないが、少し安心してしまう自分がいる。
気を抜いているわけじゃない、ただ…まだまだこいつは謎だらけだ。
だから…この先も、定期的に、行動を監視しようと思う。
了