キスの日 手を繋ぐのすら、いっぱいいっぱいなのに。
目の前の相手は真剣だ。
俺はこれ以上後ずされないと観念し、壁に体重を預けながら、おそるおそる顔を上げる。
顔を真っ赤にしたアイツは、俺の頬に手を添えると、ゆっくりと顔を近付けてきた。
「キスの日?」
「ああ。キスシーンのある映画を日本で最初に上映した日らしい」
円城寺さんは、ぜったい面白がっている。
俺と、俺の隣に座るアイツがわたわたするのをカウンター越しに見るのが、近頃のこの人の趣味なのだ。
「なっ、……そーかよ」
わかりやすく動揺するアイツの横で、俺はなんとか態度に出さないよう、ラーメンを啜る。
キスなんて。
手を繋ぐのすら、いっぱいいっぱいなのに。
「オイ。……腕、当たってる」
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