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    kameyamakameta

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    kameyamakameta

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    堅揚ポテト部🍟二度揚げ部門。
    フラハドの導入部分。鼻チュー()しかしてない。

    暗渠に臥すバキバキバキ…と何かが折れる派手な音が宿舎中に響く。周りの部屋に住む爆弾隊の面々が跳ね上げ窓を慌ててバタバタと閉めていく音が続き、始まったか、とため息を吐いた。

    前回の艦での出撃で、フライがどうやら同乗の隊と揉め、艦内で暴れたらしく。他の2班を不能にして資材の交換地点で帰還艦に無理やり引き渡し、1陣目で捕食者を全て沈めて帰ってきた。
    成果を出してはいるものの、お咎めなしとはいかなかったようで。
    次の季節では謹慎と会議で言い渡され、
    「そうか。少しうるさくするが、すまないな。」と涼しい顔で答えて議長の爆弾隊をげんなりさせていた。

    そして宣言通り、季節半ばの今日、騒音が響き出したわけだ。
    コレを、フライが疲れて眠るまで耐えなければならない。
    アイツは殆ど無尽蔵の体力だから、本当にずっとうるさくて。
    …コレを聞くのも辛いが、暴れるフライ自身ののささくれ立って傷んでやまない精神を思うと、いつか同室で先輩として過ごした日々を思い出して痛む胸のほうが自分は辛くある。

    今回は長くかかりそうだ。疲れて落ち着いた頃合いで声をかけてやれば、少しはマシに(本当に少しだが)なるようだし、後で扉越しに訪ねようかと、考えていた。
    「おい!!うるさいぞ!!!」
    窓から飛び込んできた声にギョッとする。精神がいきりたっているフライに注意なんかするやつがいると思っていなかった!
    慌てて見にいこうとすると、一瞬音が止んで。
    …ドゴォオン!!!!!
    「っ、お、わ…!!」
    宿舎全体が揺れるほどの轟音。部屋の中で唾液を爆発させたか?!?いや、そうしたら轟音で済まない。…考えるに、作り付けの棚を壁から引き剥がして投げつけたってところか。あいつの桁外れの膂力は知っているがそれにしたってとんでもないことをする…。
    一瞬呆けてしまったが、そんな場合ではないと宿舎のスロープを駆け下り、フライの部屋へ繋がる回廊の通路へ向かう。着いてみると、その通路から、大きすぎる音に腰を抜かしたらしい爆弾隊が1匹這う這うの体で出てきたのを友らしい2匹が真っ青になりながら立たせようとしているところだった。
    「おい、何があった?!」
    「う、うるさかったんで、注意しようと…」
    「っ、バカか!?なぜアイツを刺激した!??」
    「ハーディ、そいつら新入りだ。フライのことを知らなかったらしい」
    後から出てきた顔見しりの爆弾隊がまだ部屋から聞こえ続ける騒音に顔を顰めながら話しかけてくる。
    知らないにしろ、誰も止めにこようとしない時点で『触れてはいけない』案件であることを察して欲しかった。
    が、今更何もかも遅い。フライの部屋から聞こえる破壊音は今までに無いほど酷くなっている。
    もはや部屋の前でもまともに話が出来る状態じゃない。
    …深呼吸をひとつ。おまけでもうひとつ。
    「っ、そいつら連れてってくれ!俺が、なんとかする…!!!」
    「な、なんとかなるわけないだろ!いつも通りほっとけ!!それしかない!!!」
    「もう無理だ!このまま放っておいたら…!!っ!?」
    被害が「騒音で済まなく」なる。そう言おうとして。
    不意に、耳が痛んだ。違う、騒音が急に止んだのだ。耳鳴りがするほどの静寂。
    「そこに、誰かいるのか。」
    臓腑が引き抜かれる様な、怖気。
    気が付かれた。
    「なぁ、いるんだろう。寂しいな、無視すること、ないじゃないか。」
    柔らかく、朗らかに。くらい廊下の閉ざされた扉の向こうからかけられる声は決して大きくない。
    でも、耳元で吐息ごと囁かれる様に明瞭だ。存在を肉迫に感じる。いつ屠られてもおかしくないほど。
    知り合いの爆弾隊に目を向ける。
    浅い息を吐きながらの口の動きだけを読み取る。
    …「すまない。」
    適切な判断だ。『爆弾隊殲滅と爆弾隊長1匹』を天秤に掛ければもちろん後者なのだから。
    軽く頷き、鰭で新入り達を頼むとそちらへ鰭を振って暗い廊下へ向き合い、進む。
    「…寂しいのはこっちだ。同室の先輩の匂いも忘れたのか?フライ。」 
    「ふ、ふふ、ハード。やっぱりお前もいたのか。うん、うん、分かっていたよ。はぁど。」
    がりり…と扉を鰭先で掻く音が響く。
    がりり、がり、がりりり。
    「うん、はぁど、来てくれるって思ってた。ふふ。」
    がり、がり。
    「ああ、可愛い後輩を、放っておくわけに、いかんからな…」
    がりり、がりっ!
    暗い廊下に、反響する音が、自分の脳を掻きむしる様で。
    恐怖で、吐き気がする。無為に死ぬことへの恐怖じゃない。もっと根源的な。『コレ』に相対するなら『死んだ方がマシだ』という恐怖。
    「は、はは…」
    良くない笑いが出る。分かってる。これは狂気だ。そうだ。正気でいられるものか。
    だが、がりっ!がりっ!!と言う音が頭の中を掻き回す度に正気に振り戻される。
    吐き気を飲み込んで、進む、もう少し、進む。
    「ふふ、はぁど、たのしい、なぁ。」
    こわい。きもちわるい。ころしてくれ。たすけて。
    頭の中がめちゃくちゃになって、思わず前に突き出した両鰭が、触れる。壁、違う、扉だ。
    ここに、入らなければ。嫌だ。入りたくない。助けてくれ。逃げたい。
    そう思うのに、振り返ることすらもう出来ない。身体がいうことをきかない。扉についた両鰭が離れない。あ。
    「はぁど。きてくれて、うれしいよ。」
    ガチャ、と音がする。また引っ掻いた音かと思ったが、扉がゆっくりと内側に開いていくから違うと分かった。内側から、扉を開けられたのだ。
    「っ、ぁ、ぁ…?」
    バランスを崩しかけながら部屋に入る。
    何も、見えない。片目がほぼ見えないのは元からだが、問題のない方の目も、何も見えない。
    荒れた部屋の様子が目に入ると思っていたのにと、微かに残った正気が困惑する。
    「そんなにみつめられると、てれるなぁ。」
    ガチャ、かちゃん。と扉が閉まり、鍵が掛かった音がしたのと、「目の前の暗闇」が喋ったのは同時で。
    「ぁ、ああ、ふ、らぃ…」
    目の前にいたのだ。あまりに強い個体が目の前にいて。死を覚悟した本能の慈悲だろうか、見えているのに認識ができていなかった。
    「ふ、ふふふ。はぁど。ね、こっちみて。ね。」
    すり、と鼻先を寄せられる。
    擦り寄せられたところから、ずじゅ、ぐじゅ、と湿った音がして、自分が涙と鼻水を流していることに今頃気がついた。饐えた匂いもする。吐き気どころかとっくに吐いていたかもしれない。
    フライが、すぃ、と目を細める。
    「はぁど、…ハード。10秒、やる。」
    した、かんで。ハぁド。
    ぐるぐると唸りながら言われた言葉を痺れた頭で咀嚼する。
    「…ふ、フライ…。」
    最後の、コイツの最後の気遣いだ。尊厳を守るための自死。そのチャンス。
    そうだなぁ、お前、そういう奴だった。
    そういう奴だったよ。
    震える鰭を伸ばし、興奮して半分開いたフライの鰓を押さえて。
    口を開け、フライの、自分の涙と鼻水と吐瀉物で濡れた鼻先を舐める。
    「は、ぁど…」
    驚いたというより、絶望した眼で俺を見る。
    見誤ったなぁ、フライ。俺の、可愛い、年上の後輩。
    「返しに来い、と、言ったろう?」
    もう、お前を1匹きりにするのは、ごめんなんだ。
    「は、はは、あっははははははは…!!!」
    ゲラゲラと、どちらからとも分からない狂気の哄笑を重ねて、何かも分からない残骸が散らばる床に押し倒されて、鋼鉄の鱗の下で更にバキバキとなにかが更に壊れていく音がする。もしかすると床が抜けかけているのかもしれない。
    どうでもいい。今大事なのは、目の前のお前だけだ。未来も、正気も、規律も。
    互いの涎で全て溶かして、飲み干した。
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