話をしよう───夢の話をしよう。
空には光が溢れていた。
いや、真っ暗であった空は、まるで宝石が埋め込まれたかような星がキラキラと光り輝いていた。その一つ一つが美しく、この目には眩しく見えて……目を細めていたのだ。
手を伸ばし掴むと、あれほど美しく光っていたものは霧散して消え、残ったのはぽかりと空いた暗闇だけ。どうしてかわからず何度か同じ事を繰り返した。光と闇で空がまだらになった頃、消えてしまった光は戻らないことに気がついた。
とてもいけないことをした気がして、空を見上げていることが辛くなった。
視線を下に落とそうとしたとき…視界入った翠緑の光に気がつく。
それは辺りの星々より地上に近く、周りの星々よりもひときわ綺麗に輝いていた。
眩しく見えるそれに思わず手を伸ばして掴まえようとしたが、先程のように消えはしなかった。遠くて届かず、その手は空を切っていたのだ。ほっとしたと同時にそれが残念に思えた。
触れば消えてしまうかもしれない。けれどもそれに触れてみたかった。それほどまでこの目に焼き付く光がこの胸をも焼いたのかもしれない。
歩けば届くのだろうか。足を踏み出す。
一歩、一歩……足を動かしているはずなのに一向に近づいている気がしなかった。
それでも足を止めることもできず、頭上の星たちは斑のままで、奪ったおまえに得られるものなどないのだとせせら笑うかのようだった。
───そんな夢をみた。
「へー……そりゃまた、わけわかんねえ夢をみたわけだ」
「そうだな」
「それで?どうなったんだよ」
「……それで終わりだ」
「え?」
「そこで目が覚めた」
なーんだよそりゃとオチのない話に不満げな弟弟子はため息をついている。
おまえも夢とか見んの?と聞いてきたのはその当人だ。
最近みた夢をそのまま伝えればこの反応である。
「面白い話ではないと言っただろう」
「夢なんだからもうちょっと楽しそうなやつとかぶっ飛んだやつとかよー」
ぶっ飛んだ夢とはなんだ。
「好きなやつとデートしたりとかいい雰囲気になったりとか、美味しいもん食ったりとか美女に囲まれて──」
「それを聞いておまえは楽しいのか?」
「楽しいかどうかは聞いてから決めんの!」
「だから答えただろう。楽しくはないと言ったが」
「まーーそうなんだけどよ」
もうちょい夢あってもよくねえか夢なんだから
などとブツブツ言っているポップを見ていると、目が合った。さきほどの騒がしさとは打って変わって真剣な眼差しに変わっている。
「……その光ってよ、おめえが欲しくてしかねえのに、それは手に入らねえと諦めちまってるものなのかもな」
答えられなかった。
「案外さ、頼んでみれば良いんじゃねえの?」
「頼む…?」
「おれの手の中に来てくれよ!ってさ」
「そんな簡単に…あれほど遠いのだ。こちらの声など届きはしないだろう」
「夢の話なんだろ?夢の中でくらい、もっと自由で正直に生きればいいんだよ。なんせ自分の夢なんだからさ」
にこりと笑ったポップの顔はあの夢の光と重なって見えた気がして、ちりりと胸が熱く、思わず視線を空に逃がせば満天の星空が頭上に広がっていた。
「でもロマンチックなのか自虐的なのかわかんねえなおまえ。どっちも含めてなんだろうけど、どちらかにしとけよややこしい。……そういうのモテる秘訣だったりすんの?」
などとブツブツ言いながら、同じように空を見上げ
「また夢の続きでもみたら聞かせろよ。じゃあな」
そう言って踵をかえすポップの姿に深く考える間もなく、ただ声が出た。
星の話をしよう───