芍薬 庭の芍薬が、蕾をつけた。
「一十さんの庭は、いつでも花見ができますね」
縁側に胡坐をかいた八色さんが、その蕾を見つけて口元をほころばせる。先週までは、どこからともなく桜の花びらが風に乗って運ばれてきた。その前は背の低い木瓜が、さらにその前は盆栽の梅が冬の庭を彩っていた。板戸の一部を外して植えた山茶花の生垣も、色を添えてくれた。
「ええ。朝起きた時、眺めて楽しい庭にしたくて」
彼に湯呑を渡して、自分も隣へ座る。休みの日、彼と昼からのんびり過ごせるのは久しぶりだ。つい先日まで、新しい作品を書き続けて、直しの作業に追われていた。それが昨日、ようやっと書き上がり、出版社の彼の担当から問題なしと電話があった。
2411