涕泣、潮風遺る町の隅にて 無性に恋しくなる人が居る。
母親に罵声を浴びせられ、暴力を振られた時。父や祖父母には見て見ぬふりをされた時。知らない女と夜を過ごしサヨナラした時。
どうしても、会いたくなってしまう人がいる。
「……………………お兄ちゃん」
人とは脆いもので、いくら表面上では取り繕っていても確実にボロが出てくるものだ。
積み上げていた積み木がグラグラと揺らぎ崩れるように、コップになみなみと注がれた水が零れ落ちてしまうように。
今歩いている道が道なのかすら分からないくらい視界が歪んで、歩みを止めそうになってしまうことがある。
それをいつも救ってくれたのは『お兄ちゃん』であった。
積み木を正しい位置へと戻してくれて、零れてしまった水を優しく指で拭ってくれるお兄ちゃん。
6872