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    sr10957

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    sr10957

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    私が調子に乗るとこうなります助けてください衝動が抑えきれねえ……止めて……コロ…シテ……

    君の香り 手に、触れる感覚がある。優しく持ち上げられている。布越しに感じる体温が心地いい。それを握る。あたたかい。
     思考が重くて瞼が上がらなかった。少し首が痛いけれど、気にするのも惜しい。
     ……まだ、もう少しこのままでいていいだろうか。もしくは、再び眠りに落ちてしまいたい。香る芳香のように甘い誘惑と本能に従って。
     徹夜の翌朝よりは軽いけれど、それでも覚えのある感覚だ。クッションが効いた椅子は、なぜこうも落ち着くのだろうか。包み込まれるのが好きなのだろうか。
     意識を腰掛けている椅子に沈めるように落としていく。それを肯定するように、頭を撫でられる。気持ちが良くて、ずるずると温かいまどろみに引き摺られてゆく。
     こんなに穏やかな気持ちになるのは、いつぶりだろうか。

     かさり、葉を踏むような音に、また意識が持ち上がる。手と頭に触れていた感触が離れる。それが名残惜しくて少し身じろぎをしたけれど、もうそれはそこには無かった。まだ体に力を入れる気になれなくて、重心に従って身を傾けた。
     ひとの気配が濃くなる。ひそめた声が聞こえる。内容を聞き取るよりも、まだ頭は睡眠を求めていた。
     さら、と頬に何かが触れた。たぶん髪の毛だ。知ったにおいがする。
    「失礼します」
     小さく低い声が鼓膜をくすぐった。そしてすぐに、体の向きが、角度が、重心がぐるりと回転した。
     二本の腕と胴体で体を支えられている、というか、持ち上げられている。特有の不安定さが身を揺らした。
    「では、急いでおりますので」
     聞いたことのない声色で、はっきりとした言葉が頭のすぐ近くで聞こえる。たぶん後ろにいる誰かに言っているのだろう。激しくはないが、冷たい。お前そんな声も出せるんだな、と口にしようとして、未だ回路の繋がらない頭から出力されたのは言葉にならない空気の震えだった。
     葉を割る足音が体を揺らしてようやく、薄ら目を開ける。思っていたよりもずっと近くに、穂高の頬が見えた。視線に気づいたのか、形のいい黒い瞳がちらとこちらを見る。
    「まだ眠っていていいですよ、お嬢様」
     ほんの少し、その目が細くなった。先ほどの声とは全く正反対の、静かで優しい言葉だ。
    「ん……」
     それならばいいか、と、その肩と首筋の間に、頭を預けた。
     花の芳香はもう、かき消えていた。
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