無題ベンティスカの狛犬を知ってるか?
まあ、よくある昔話さ。昔、ベンティスカには一対の懐刀がいた。…あ?双子じゃねえよ。血の繋がりはなかったが、そいつらは誰より相性が良かった。話さなくても通じたし、凹凸の加減が誂えたみたいにぴったりで…だが一人は離反し、一人は残って、“ベンティスカの狛犬”は死んだ。
言ったろ?よくある昔話だって。どんなに相性がよくたって、一生を添い遂げるのは希なもんさ。
…俺だって別に、別れようと思って別れたわけじゃねえよ。この街を出て随分いろんなところへ行ったが、あいつみたいな奴はどこにもいなかった。
当時は俺だって覚悟決めてよ。だが今思えばまだ青かったな。覚悟はあったが計画なんてもんはビタイチないときた。とりあえず賭場で資金稼ぎしながら潜んでたら、あいつ、あっさり見つけやがって。おまけに差し入れまで寄越すから、バレたらてめえも道連れだぞっつったんだよ。そしたら「まあ、そのつもりだけど」なんてボヤけた返事しやがって。
だって、俺はちゃんと言ったぜ?もう我慢ならねえから組を抜けるって。二人で一旗上げようぜ、おまえは俺の右腕にしてやる、ってな。その時はヤダって言ってたくせに。元々、危ない話は好まねえやつだから、俺も奴の気持ちをくんで独りで出たのによ。
そしたら、あいつなんて言ったと思う?「俺らは相棒だろうが」ってキレやがった「てめえが右なら俺は左。てめえがボスなら、俺もボスだろ」ってさ。つまり、“右腕”ってのが不満だったってことだ。
それには俺も気が抜けちまってよ。こっちが身を割く覚悟をしたってのに、まったく笑えてきちまったぜ。
…それで?まあ、誤解がとけてめでたしめでたし…とはいかなかった。言ったろ?一生を添い遂げるなんて希なもんだ。本人が望むと望まざると。特にこの街じゃ、な。
俺たちは一緒に行くはずだった。あいつは、支度があるから一度戻ると言って、そして落ち合うはずの場所には来なかった。今思えば馬鹿な話だ。追っ手がないとは思ってなかったさ。だが俺は、それがあいつ自身だとは知らなかった。“ベンティスカの狛犬”は死んだ。俺も馬鹿だったがあいつもたいがい馬鹿だった。
なんでそんな話をするかって?てめえがそのベンティスカの一員だからだよ。ご健勝のようで何よりだぜクソッタレ。
スノウのジジイに伝えろ。ブラッドリーが帰って来たと。てめえの首をぶんどりに来たってなァ!