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    Ayataka_bomb

    @Ayataka_bomb
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    Ayataka_bomb

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    捏造過多
    彩ちゃんとカンキーリャのSS

    【よそのこ】山査子 庭の山査子が実をつけなくなって何年経つだろうか。小さい頃は大人の誰かが豊富に実った果実を摘んでほんの少しのジャムに加工していた気もする。パンに添えておやつにした記憶もある。でもそれは本当に懐かしい記憶で、ここ数年は赤い実を見ていない。幼い私が山査子の下で遊んで踏みしめたからだろう、と、これまた大人の誰かが言っていただろうか。
     浮遊感のある足取りで緑の道を進む。葉の生い茂った山査子がまるで生垣のように道を作っていた。葉陰の下から棘の枝が顔を出している。まるで私のために道を開けるように、歓迎の色を示す。
    「遊びに行くの?」
     唐突に柔らかい問いかけが響き、足を止める。はて、私はこの先に何をしに行くつもりだったか。
    「うとうとしてると転んじゃうの。起きた方がいいの」
     温かい葉擦れの静寂に少女の声が一雫。
     ああそうか。これは夢だな?
     ぼんやりとしていた視界が晴れる。左手の温もりと聞き慣れた少女の声を頼りに、山査子の世界とも言うべき異空間で、浪野彩は目を覚ました。
    「おはようカンキーリャ。目を覚ましても……夢の中だね」
    「おはようなの。不思議の国なのー」
     きゅっ、と握られた小さく可憐な手のひらを握り返して、クリアになった意識で再び歩みを進める。覚醒し、帰る意思を持ったのなら問題ないと経験が言っている。
     何の葉でもない落ち葉を踏む。軽やかな音だ。
    「誰に呼ばれたかわかるの?」
    「さあ……どうだろ……思い当たる節はあるけど」
     背の高い山査子しか視界になかったが、思案するように空を見上げればまるで天井のように棘の枝が張り巡らされていた。どこから生えているのかはわからないが、攻撃的な見た目とは逆にどこか優しく懐かしい。
    「恨まれてるのかね……」
     思ってもないことを口に出すと、否定したのはカンキーリャだった。
    「それは違うと思うの。嫌なことをしようって気持ちは感じないのー」
     カンキーリャの髪の間から薄いリボンのような「お友達」が顔を出している。艶のある身体に枝越しの陽光を浴びて、楽しそうに揺れていた。
     想い出に浸るような穏やかな気持ちで歩を進める。行動を起こせば大抵どうにかなるものだ。私を呼んだものに会いに行こう。無事に柔らかいベッドに返してもらわなくては。
     風が強く鳴いた。
     繋いでいない右手を引かれるように、そっと背中を押されるように、前へ前へと落ち葉を踏む。
    「変だね……」
     呟く。どこかに誘われているはずなのに、どこにも辿り着かない。カンキーリャも周囲を見回しながら不思議そうな顔をしている。しばらく道なりに真っ直ぐ歩き続けていると、引かれた右手がそっと離され足が止まる。
     目の前には山査子の低木が佇んでいた。その根本付近、枝が上へ向きやや不自然に空いた空間は、子どもがしゃがんで入り込めるような隙間になっている。周囲の壁のような木々ではなく、庭に植えられゆっくりと育つその木だけは現実味を持っていた。カンキーリャとともにその木の側に歩み寄る。陽光を纏っているかのように、仄かにあたたかい。
    「そろそろ帰ってもいいかな……?」
     問いかけに応えるように、木々が優しく囁く。またね、とでも言うように、慈しみに満ちた不可視の手が頭を撫でた。
     この木霊は純粋な想いだけで私を呼んでいた。元気をなくしてしまったために近くに来てくれなくなってしまった子ども……浪野彩に、また会うために。
     ──山査子(わたし)の下で遊んでいたあなたにもう一度会いたかった。無邪気に遊ぶ幼い子どもを傷つけないように棘を上へ上へと離して、見守っていた、小さかったあなたに会いたかった。────それだけ。
     いいよ、帰っていいよ、また来てね、遊びにきてね、私の葉陰で元気に歌ってね────。
     人語にならない葉擦れの谺が唄う。
     眠りに落ちるような浮遊感と、温かい水中からゆっくり引き上げられるかのような、緩やかな目覚め。
     目瞬きをして柔らかいベッドから起き上がる。人知れずに空いた窓から初夏の風が舞い込んで、庭先へと誘う。小さく嬉しい予感を胸に早朝の空を拝むと、季節外れの山査子が小さな実をつけていた。ジャムにするには少ないけれど、鮮やかで可愛らしい小粒の赤色だ。
     窓から顔を出したカンキーリャが微笑む。
    「元気になったよーって真っ先に彩ちゃんに伝えたかった、って言ってるの」
     照れ隠しのように山査子は葉を震わせた。
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