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    Ayataka_bomb

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    Ayataka_bomb

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    同人誌:かみかみエブリデイの書き下ろしWeb再録です。クレオスvsリヒュペのバトル回

    【よそのこ】【オリキシン】グラス・クロス 夏の夕暮れは長い。
     十七時を回っても遠くで光が名残惜しそうに尾を引いている。日中の猛暑が引き始めているとはいえ、まだ蒸し暑い。
     駅前の道を歩いていた塾帰りのカナは、同じく塾帰りであろう多部太陽とリヒュペの二人組にばったり出会った。あ、と声をかけたのはほぼ同時で、カナは一瞬の逡巡ののちに「こんにちは!」と口にする。カナの頭の上で休んでいたメンヒャクも、太陽とリヒュペを目にするとひらりと舞い上がり、同じく「こんにちは‼︎」とその体のどこから出しているのかわからない声量で元気に挨拶をした。
    「こんにちはカナちゃんたち。メンヒャクは今日も元気だね」
    「さっきまで寝てたんですけどね」
     視線を向けると、二人の周りをぐるぐる回っていたメンヒャクがカナの頭の定位置に戻ってくる。
    「まあ、教室では遊べないので」
    「だろうね」
     カーテンに包まれたリヒュペが笑う。
    「メンヒャクはいつも教室のどこかで寝てるんですけど、太陽さんが塾の時リヒュペはどうしてるの?」
     帰路が途中まで同じため、並んで歩きながら訪ねる。
    「私?私は外歩いてたり留守番したりしてるよ。終わるくらいの時間に迎えに行ってるね」
     夜は物騒だから、とリヒュペは言った。
     太陽もニコニコしながら頷く。親が送り迎えしてくれるとちょっと気恥ずかしくなるのはカナ自身にも覚えがある。だが剛力神だと他人には見えないし、感覚的にも友達と一緒に帰っているような気分だ。そのために抵抗感がないのだろう。
     取り止めのない話をしながら歩く。
     入り口が歩道に面したコンビニの前を通りかかり「アイスでも食べたいねー」と太陽が呟く。二人の歩みが自動ドアの前に差し掛かったとき、ワンピースを着た見覚えのある人物が退店した。

    「えっ、姉じゃん」

     器用にも人間に変身しているクレオスの姿だった。小さいレジ袋を片手に下げており、もう片方の手には一口齧り済みの棒アイスが握られている。
    「やあ妹」
    「姉じゃん‼︎」
     姉との遭遇を喜びながら、クレオスは太陽とカナとメンヒャクに視線を移す。
    「ところで誰か今アイス食いたいっつった?」
    「僕」
    「アイスあるぞ。はい」
     クレオスは片手のアイスを口に咥えて、レジ袋から棒アイスの箱のセットを覗かせる。アイス自体は白くてわからなかったが、明るい水色の外装通り「ソーダ味六本入り」と大きく印字されている。
    「残り一本はフワジェニーのな」
     元々カナたちと食べようと購入していたらしい。クレオスは全員に一本ずつアイスを配り、個包装のゴミを手早く回収した。ベンチの側でアイスを食べて涼む。
    「クレオスありがとう」
    「元々二本余るからな。気にしないで」
     ハズレの字が記されたアイスの棒をゴミ箱に投入する。まだ空は明るい。
    「さて、と」
     クレオスは長い手足で伸びをする。準備運動のような動きを何度かしてから、「神相撲しよ」と真顔で提案する。
    「神相撲⁉︎ 今からするの⁉︎」
    「だめ?姉と久しぶりに取り組みしたいんだよなあ」
     驚いたカナの頭上からアイスの棒をゴミ箱へ投げ入れたメンヒャクが、店内の時計を覗き込む。
    「時間的には大丈夫ですけどアイス溶けちゃいません?」
    「冷気閉じ込めたからいける!」
    「なら私も込めておこう」
     二人がかりでアイスの安全を確保して、メンヒャクがレジ袋を預かった。

    ***

    「それじゃ、やるぞ! 神相撲ー!」
     クレオスの掛け声と共に土俵が展開される。凍りついた海上と、ダイヤモンドダストのような光の粒子。視界に広がる氷雪世界はこの世のものではない美しさを湛えていた。
     そしてその世界にふさわしい二柱の女神、カミズモードに変化したクレオスとリヒュペが土俵に降り立つ。
    「勝とう。リヒュペ」
    「もちろん。君に応えるとも」
     太陽からの信頼へ、言葉と微笑で返す。
     神太鼓ブースから土俵を見下ろしたカナも、深呼吸をひとつした。
    「準備バッチリ! いけるよね、クレオス!」
    「ああ、いつでも!」
     二柱が準備を整え向かい合ったのを確認すると、行司は上空から凛とした声を張る。
     はっけよい、のこった!という始めの合図とともに、クレオスは土俵を蹴った。カーテンを翻し、一直線にリヒュペへと駆け出す。
    「いい的だよ」
     リヒュペはたおやかに指先を前に向け、連続して氷の矢を放った。クレオスは足を止めることなく左手でカーテンの裾を掴み、華奢な矢を冷幕で振り払う。しかし懐の開いた一瞬をリヒュペは逃さない。牽制として放った脆い矢ではなく、その間に充填していた吹雪の弾丸を放った。
    「ッ、カナ‼︎」
     荒野と山嶺と海上を裂く烈風の弾丸だ、命中すればクレオスでもひとたまりもないだろう。瞬時に更なる神通力を要求し、カナも全力で神太鼓を打ち鳴らして応える。弾丸は一瞬でその眼前に迫る。
    「うおぉおおおっ‼︎」
     クレオスは腰を低くして、雄叫びを上げながら勢いよく右の拳を突き出す。薄いガラスが劈き砕け散るような音が弾け、冷たい風が吹き荒んだ。そして真正面から受け止めた弾丸の余波──轟々と鳴る吹雪の凝固を、その拳で打ち破る。
    「…………ほう?」
     クレオスの突き出した右腕には氷のガントレットが形成されていた。拳部分から手首にかけてが粉々に砕け散っている。持ち前の膂力で弾丸を殴りつけると同時に砕け散り、吹雪の衝撃を相殺したのだ。
     感嘆したリヒュペへ不敵に笑いかける。
    「どうよ。こっちも前より強くなってるってわけ」
     そもそも、クレオスも考えなしに突撃したわけではない。リヒュペの洗練された技巧は姉妹の中で群を抜いているが、パワーではクレオスの方に分があるのだ。
    「確かに強くなっているな。力も、技も」
     そして、クレオス自身が不器用かというと、必ずしもそうではない。
     弾丸を殴って破損したガントレットを再構築する。
    「いくよ、姉っ!」
     一撃一撃に力を込めた拳打。クレオスの攻撃に無駄な打撃は無い。左半身を覆うカーテンで拳を受け流すも、リヒュペはじりじりと後退していた。
    「リヒュペ!」
     声とともに太陽の熱い神音が響く。微少な氷の粒が舞い、リヒュペを中心にとぐろを巻くように氷の鞭が形作られた。リヒュペがその美しい鞭を手にすると周囲を切り裂くように振るい、クレオスを引き離す。
    「くっ……!」
    「この距離では拳も届くまい」
     氷の連なりが撓り煌めく。後退したクレオスを追撃する鞭から逃れるため、重厚なガントレットを光の粒子へと解き、素早く飛び退く。だが逃れたはいいものの、中距離以上はリヒュペの領域だ。優雅に鮮烈に攻撃を繰り出しながら、再接近を許さない。
    「今できる全力を出すがいい、クレオス!」
     しゃらん、と音を立てて一瞬停滞した鞭が、その直後凄まじい速度で振るわれた。
    「私の全力甘く見るなよー!」
     挑発とも素の言葉とも言えぬ、むしろどちらの意味も含んだリヒュペへ返す。リヒュペが強く鞭を振る直前に、クレオスも同じように長くしなやかな獲物を手にした。氷の鞭。しかし、その先端にはリヒュペのもののような繊細な装飾の刃ではなく、巨大な「重石」が作り出されていた。全身を使って鞭を振るうと、巨大な錘が遠心力で力を増し、流麗の鞭を薙ぐ。叩き落とした鞭の尾ごと巨石は土俵にめり込み、双方が派手に砕け散った。
    「む」
    「まだまだぁ!」
     リヒュペの鞭の再生を阻むため、クレオスの残った鞭部分がその先を絡めとった。ギリギリという氷の鍔迫り合いの音と共に強く手前に引くと、自身の鞭ごと高い音を立てて砕け散った。そして「枷」を外し自由になったクレオスは、氷片の輝き舞う土俵を再び駆け出した。
    「カナーっ!決め技いくぞ!」
    「よし、いっけええええ‼︎」
     カナの小さい身の全力がバチに込められ、神太鼓が響き渡る。漲る神通力を氷の牙として両脚に纏わせ、高く跳躍した。
    「ブラインアイシクル‼︎」
     一直線に狙うはリヒュペ。余計な小細工は一切無し。最大火力による一点突破が最終的にモノを言うのだと、それがこの親方となら確実に成ると確信している。
    「迎え撃つ!太陽!」
    「はああああっ‼︎」
     響き渡るカナの神音にも押し流されない、熱く強い神音。四肢に渡る神通力を鋭く纏め上げる。右腕を横に振り、冷たい神の息吹を周囲へ舞い上げる。極光色を溶かした氷の結晶が剣のように湧き上がる。そしてその攻性の玉座の中心で、リヒュペは靡いた左肩のカーテンを槍の形に変形させた。
    「クライオウスフィア‼︎」
     蹴撃と槍が凄まじい音を立てて接触する。その瞬間、二人を中心に低温の大爆発が巻き起こった。爆風と共に土俵に生えた氷刃が剥がれて砕け散る。暴風は土俵の外まで大きく揺らし、白い嵐が全ての視界を遮った。遠くの方からメンヒャクの素っ頓狂な悲鳴が上がった気がする。
     カナは揺れる神太鼓ブースにしがみついて嵐に耐える。ぎゅっと瞑った目蓋の裏も真っ白で、二人の様子がわからない。
    「リヒュペ!」
     吹き荒れた嵐が収まったと同時に、太陽が相棒を呼ぶ声がした。目を開けると土俵の上は真っ白で、爆発の余韻だろうか……幻想的な靄がかかっている。
    「クレオスー!」
     カナも呼びかけるが、返事はない。様子がわからないのは上空の行司も同じようで、靄が晴れるのを待っている。
     冷たい風が吹く。固唾を飲んでかき消される靄の先を見つめる。
    「これは────」
     晴れた土俵では、クレオスとリヒュペの双方が膝をついていた。お互い肩で息をしており、戦意はまだあるものの満足げな笑みを浮かべている。
    「この勝負、引き分け!取り直し!」
     行司の声が告げる。カナと太陽はお互い顔を見合わせると、頷いて土俵を閉じた。

    ***

     土俵を閉じると同時にどこかへ吹き飛ばされていたメンヒャクもコンビニ前に戻ってくる。アイスが一本入ったレジ袋をひらひらと泳がせながらカナのもとへ舞い戻った。
    「二人ともすごかったですね!流氷の向こうまで飛ばされました!」
    「私もびっくりしたー。クレオスもリヒュペさんも無事でよかった」
    「うん。決め技の衝撃波はすごかった。カナちゃんも力強い神音だったよ」
    「えっ!そうですか……?えへへ」
     素晴らしい勝負を見せたクレオスとリヒュペ、そしてその親方同士でねぎらいの言葉をかける。
    「私も今回はなかなか良い神相撲だったと思うんだよね。結構いいとこまで食らいつけたんじゃない?」
    「ふふ。そうだな。私もうかうかしてられない」
     神相撲を始めてからそれほど時間は経っていない。十七時半を少し過ぎた時計を見上げて、コンビニを後にした。しばらく雑談を交えて歩いていると、夕方らしく忙しない交差点に出た。太陽たちとはここから道が異なる。
    「じゃあまた」
     クレオスがひょいと右手を軽くあげた。リヒュペもふっと微笑んで右手をあげ、互いの手で軽い音を打つ。
    「また今度、クレオス。カナとメンヒャクも」
    「またね、カナちゃん」
    「はいっ!また今度!」
     太陽の振った手に手を返し、それぞれの帰路につく。
     蒸し暑さを放っていたコンクリートは波が引いたように落ち着いている。クレオスの操る冷気はもうレジ袋のなかに閉じ込めたものだけだった。
     夕涼と言っていい時刻と心地よい空気が、一日の終わりを優しく指さしている。
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