なぁ、学生時代ってなにになりたかった?
えーおれ有名まじかめぐらまー
ぶっ、うけるー!
あ、おれ超げーのーじん!そんで美人の女めっちゃはべらせんの!
うっわーくそ煩悩まみれw夢ねーなー
ある意味あんだろww
な、ケイト、おまえは?
「え?」
ぼうっとしていたおれは、職場の先輩たちに話をふられ、びくりとした
「お前は学生時代なにになりたかったんだよ」
学生時代・・・NRCの時・・・もう5年も前か。
「うーん・・・、ヴィル・シェーンハイトの恋人ですかね?」
いつもみたいに、へらっと笑って見せた
「は!?お前何言ってんの?
「あーそうか、ケイトってたしかヴィル・シェーンハイトと同級生なんだっけ??」
「え、すげぇじゃん!超有名芸能人と一緒に学生生活すごしたってこと?」
おれは先輩たちの野次馬根性にあふれたヴィルくんに対する質問を、愛想笑いしながらのらりくらりとやりすごす。
(はやく終わらないかな・・・)
今日は仕事が早く終わったので、先輩たちと一緒にパブに飲みに来た。
断ってもよかったんだけど、今日はなんだか行きたい気分になって先輩に誘われるがままにきたのだ。
でも
(やっぱ断ればよかった)
人付き合いは面倒くさい。。。そう心の中で毒づきながら、俺はこっそりため息をはいた。
「おれ、今日は帰りますね」
二軒目の店へ移ろうとする先輩たちに、俺はいつもの薄い愛想笑いを浮かべながら断りを入れた。
夏も終わりかけ、秋の気配がする夜の風は、少し寒い。
(上着もってくればよかったかな)
俺はぶるっと震え、二の腕あたりをこすり、空を見上げた。
(・・・あ、月・・・)
「ケイト?」
ふいに俺の名前を呼ぶ声が聞こえ、ぎくり、とした。
何度も、耳元でささやかれた、甘い、聞きなれた大好きな声
「ヴィ・・・ヴィルくん?」
上半身だけ身をよじらせ後ろを向く。
そこにいたのは、相も変わらず、いや、学生時代よりもさらに美しくなった過去の恋人。
黒を基調としたファッションに、華奢なピンヒールをきれいに履きこなす。
髪の毛は、NRCの時より少し短くなった気がする。
「やっぱり、ケイトじゃない!
久しぶりね、卒業式以来かしら?」
パパラッチ避けだろか、つけていたサングラスをヴィル君は外すと、懐かしそうに細めた目が現れた。
あの目にまた俺が移ることがあるなんて・・・。
「ヴィル君こそ、どうしてここに?撮影か何か?
あ、・・・デートかな?」
ヴィル君に会えたことの驚きで、彼自身にしか目が行っていなかったが、よくよくみると、大きな青い目が印象的な、ヴィル君より少し背の低いきれいな女性が、彼の横に立っていることに気づいた。
最近デビューした若手女優だろうか、ぼんやりと考えていると、ヴィル君の左腕に自身の腕を巻き付いていることがふと目につき、俺は、イラっとした。
もう、同級生以外のなんの関係でもないのに・・・と思い直し、心のなかで俺は苦笑して先ほどの感情を消し去る。
「ふふっ、雑誌の撮影よ。
この子が相手役だから、いろいろ相談をうけてたのよ。
ね?」
そういうとヴィル君は、左に視線を移す。
ヴィル君に同意を求められたこは、ヴィル君の圧に気圧され、こくこくとうなずくと、するりと絡めた腕をはずし、少し離れた。
なんだか、俺の心が読まれた気分で、少し心地いいような、それでも手放しでよろこべない感情が胸の中にくすぶる。
「せっかく久々に再開できたんだもの、もしよかったらどこかで飲みましょうよ」
にっこり笑うヴィル君には、かつて女王として寮に君臨していた時を思い出させるような、有無を言わせないオーラがあった。
「そ、それじゃ私、ここで失礼しますね、シェーンハイトさん、ありがとうございました」
お邪魔虫だと察した彼女は、慌てたように心にもないお礼の言葉をヴィル君に投げつけ、足早にこの場を立ち去った。
その様子を眺めていたヴィル君はふっ、と息を吐くと少し困ったような表情になり
「ごめんなさいね、こんなことにあなたを使って。少ししつこくって」
と愚痴をこぼした。
「いいよ別に
・・・ところで、飲みたいって話、
これもあの子を遠ざける口実?」
俺は何を期待しているんだ。
絶対にこんなこと後悔するに決まっている。そんなの自分自身が一番わかっているのに。
なんでこんなこと、ヴィル君に話しているんだろう。
俺は、今ちゃんと演技できてる?けーくんになれてる?
「そんなわけないじゃない
これは、本心。」
ヴィル君はそう言いながら、すこし泣きそうな顔をしていた。
(なんで、ヴィル君がそんな顔するの)
ヴィル君が何を考えているのかわかんない。
「ね、あれってヴィル・シェーンハイトじゃない?」
「え、ほんとだ、なになに?撮影か何か?」
まずい、
週末、繁華街から少しはずれた道とはいえ、今日は週末で人出も多い。
そんな中、道のど真ん中で長々と居座っているうちに、すれ違う人が、ヴィル君のことに気づきだしたらしい。
周囲のひそひそ声から、ヴィル君の名前が聞こえてくる。
「ね、おれんち、ここからタクシーで10分くらいなんだ。
一目もあるし、うちで飲みなおそうよ。」
(・・・最悪だ。)
俺は俺にとって一番都合が悪いカードをきってしまった。。
(期待しているの? 違う、そんなんじゃない。だってこうしなきゃ。
もう今更断れないよ。嘘つき。嘘つき、嘘つき)
俺の中で、いろんな俺の声が、聞こえてくる。
「ほんと?じゃぁそうしましょ」
ヴィル君の顔をみて、汗がつ・・・と俺の背中を伝うのを感じた。
「ふーん・・・何にもないのね」
「まぁ、そういうのは卒業した感じかな?」
俺の家にヴィル君がいることに違和感をぬぐい切れなくて、俺は家に入って荷物をおくと、すぐにキッチンへ向かった。
「うーん」
少し屈んで、飲み物が入っている以外スカスカの冷蔵庫の中を見渡し、アルコールを確認するも、あるのは、睡眠薬替わりに飲んでいる瓶ビールくらい。
こんなことなら、ワインくらい常備しておけばよかった。
くだらない後悔をしつつ、とりあえず瓶を二つつかみ、リビングで待たせてしまっているヴィル君のもとへ向かう。
リビングに入るとヴィル君は奥にある小さい窓から外をじっと見ていた。
その姿は、やっぱりきれいで、どこか非現実な空気を醸し出していた。
「ごめん、ビールしかなくて、口にあうかな?」
思わず見とれて空気に飲まれそうになった俺は、それを振り切るように、明るく声をかけた。
ヴィル君が、ふりかえり、つ、と目が俺が手にしていた瓶のラベルをみると
「アタシも、そこのビールよく飲むの」
と、少し笑った。
「へー以外!ヴィル君だとワインとかお高めなウィスキー飲んでそう」
(俺と同じメーカーの飲むんだ・・・)
心臓の音がドキドキうるさくなりだして止まらない。
俺はごまかすように、机の上に放置していた栓抜きで持ってきた2本の瓶の蓋を開け、そのうち1本をヴィル君に一本渡した。
「ありがとう」
と、ヴィル君はうっとりするような笑みで俺をみると、きれいな赤い色で彩られた左手を差し出し、わざとらしく瓶を持っている俺の手を撫でた。
「このビール、なんだかケイトが飲んでそうって思って」
独り言のようにつぶやくと、左手は滑るように瓶をつかみ、そのままヴィル君の口元へ運んで行った。
「あは、ビンゴだったね、俺ってそんなわかりやすいかな」
ふざけたような口調をしつつ、ヴィル君から目が離せない。
唇に、動く喉に、思わず懐かしい熱を感じ、ぞくり、と俺の中から熱がわいてくる。
中からわく熱を抑えようと、視線を無理やり引き離すと、俺はもう一本の瓶の中の冷えた液体を一気にあおった。
さっきも先輩たちとのできたのに、アルコールが全然効かない。
むしろ、さえていく一方だ。
焦る俺の気持ちとは裏腹に、静寂の時間はやけにゆっくりかんじた。
外の酔っ払いたちの声がよく聞こえる。
(誘っといて、俺は何をいまさら後悔しているんだ・・・)
「ねぇ」
ヴィル君は気づくと、空の瓶を持って、俺のほうをじっと見ていた。
「・・っあ、ごめん、お代わり?今持ってくるね」
「なんで、連絡くれなかったの」
ぎくり、とした。
逃げたい、今すぐ、どこでもいい。
「5年間、なんで、一度もしてくれなかったの。
アタシ、何度も連絡したのに」
射貫くような視線から少しでも逃れたく顔をそらし、
「あー・・・ごめんね・・・。いろいろあってさ」
なんて嘯く。
「でも、俺たち卒業した時にわかれたじゃん。
そんな、気にすることでもなくない?」
何て言い草だろう。
早く、早くこんな不誠実な俺を嫌ってよ。
「そうね、そういえば。別れたんだったわね。」
ヴィル君が、瓶を持ってない俺の手を恭しく持つと、そっと掌にキスを落とした。
「じゃぁ、また付き合いましょうよ」
(うやむやにする気はは、ないんだな)
ため息を吐いた後、あきらめた俺は少しだけ中身の入った瓶を、テーブルの上においた。
「むりだよ、芸能人と一般人が付き合うなんて」
「・・・」
「それに、今の感情だってただの気の迷いだよ」
「気の迷い?」
「学校なんて、閉鎖された空間にいたら、まともな思考なんてできないよ。
選択肢がそれだけしかなかったから、たまたま俺のこと好きだって思っただけだよ。
今だって、きっと思い込んでいるだけ・・・。」
少し首をかしげ、押し黙るヴィル君の眉間に、しわが寄るのを見たが、俺はおしゃべりが止まらなかった。
「それに、学生の時ヴィル君が俺と付き合ってくれたのだって、そもそも俺に同情しただけの理由じゃん
まだ同情でつきあってくれるわけ?」
卑屈になって顔を思わずゆがめる。
そうだ、あの時俺だって、ヴィル君に恋愛として好きな感情があったかといわれるとわからなかった。
ただあの時は、何もかもに絶望して、誰かのぬくもりが欲しかった。
それがたまたまヴィル君だっただけ・・・。
今だってきっとその程度
「アタシが、あんたに今でも同情心しか抱いてないとでもいうの?」
ぐ、と喉を詰まらせる。
「他人の気持ちなんて、わかるわけない。」
ヴィル君が本当は同情心なんてなく俺を好いているくらいわかってる。俺だって・・・。
今話ていることは、俺がヴィル君を遠ざけたい理由を無理やり並べているだけ。
自分の言ったことが、ばからしくて、思わず卑屈に顔をゆがめた。
もうヴィル君の顔を見るのが怖い、と俺はうつむき、傷だらけの床をじっと見つめた。
「ねぇ、ケイト。
アタシだってあなたの本心なんかわからない。
いい加減本当のこと教えて。」
(本当のこと・・・いっていいの?だめだよそれこそ、もう俺たちは終わっちゃう)
相変わらず俺の頭の中の脳内会議はうるさい。
するり、とヴィル君の手が俺の鎖骨から喉を通りすぎ、顎にかかるとくいっと顔を向かされた。
視線の先には、やっぱり、さっき道でしていたような悲しそうな顔。
「・・・耐えられないんだ」
気づかないうちにつぶやていた。
「大好きな人に、また見限られてしまうのが、もう耐えられない」
薄い付き合いしかしてこなかった自分に初めてできた大切な人。
見限られたときの心の痛み。
あの時、ヴィル君に助けてもらえなかったら、俺は多分どうにかなっていた。
そんなヴィル君が、俺を見限る時がきたら俺は
「死ぬよりつらい。」
俺は、笑いながら、ヴィル君にそういった。
「・・・そう」
「お願い。お互い同情心で付き合ってた、それでもう終わらせてほしい」
ヴィル君は俺の顎から静かに手を放すと、視線を下に落とした。
こんな時でも、ヴィル君は絵になる。ほんとうにこんなすごい人が俺の恋人だったんだ。
「自己中なのはわかってる。」
こう言ってしまう自分も本当に卑怯だ。
自分が傷つくのがいやで、約束を持ち出して一方的に別れを告げた。
ヴィル君だって傷つくのは同じはずなのに。
「アタシね、今回の撮影受けたの、ケイトに会えるかもって思ったからなの」
「え?」
「ふふ、ケイトが今ここで働いていること、教えてもらったの。
ストーカーみたいでしょ?
でも、本当に会えた時、こういう言葉好きじゃないんだけど、運命なのかしらって思ったの。」
少し恥ずかしそうに話すヴィル君は、5年たっても、あのころと同じように見えた。
(ああ、でも髪の毛は、少し短くなったのかな)
照れ隠しなのか、ヴィル君が左手で髪の毛を耳にかけると、耳たぶにつけられた緑色のピアスに目がいった。
「そのピアス、まだつけてたんだ」
安物なにの、と懐かしくなり、そろ、と俺はヴィルくんの耳についているピアスを撫でた。
「ケイトの代わり」
「おれの?」
「そう」
間抜けな声で聴き返す俺に、ヴィル君は楽しそうに答えた。
「このピアス触るとね、あの時、ケイトが開けてくれた時の痛みを思い出すの。
そうすると、不思議とケイトが私のすぐそばにいるんじゃないかって思えて」
うっとりと話しながら、ヴィル君はいとおしそうにピアスに触れている俺の手をなで、そのまま包み込むように握った。
「アタシ、ケイトを絶対に裏切らない」
「っ・・・保障なんかない」
「保証が欲しいの?」
きょとんとした顔をした後、目を細めてヴィル君は机の上に放置された、干からびかけの林檎を手にした。
「じゃぁ、これにユニーク魔法かけましょ。
アタシがケイト以外に心移りしたら死ぬ魔法」
(あぁ・・・)
華やかに笑うヴィル君の俺に対する異常な執着。
ヴィル君はおれのせいで少し壊れてしまったのかな。
そう思うと、NRC時代に感じていた親近感を感じ、ほの暗い喜びを感じ、俺は唇をきゅ、とかみしめた。
「そんなこと・・・しなくていいよ」
でも、といいならがら、ヴィル君の持っている林檎にそっとキスをした。
「でも、もし俺以外を好きになったら、俺と死んでね」
ヴィル君の目に、欲情と歓喜の色が浮かぶのをみて、俺は喜びを隠せず、唇をゆがめた。
(ようやく一緒に堕ちれるね。)