独占衝動波に揺られもしないほど安定した船体の中、照明の加減か、それとも場の熱気か――この豪華客船の空間は、やけに煌びやかに見えた。
「……」
視線の先に立つのは弥代。
祠堂たちが用意した、Aporia本部共通の黒と赤のドレス。それを纏った彼女は、まるでこの世の者ではないような雰囲気を纏っていた。
いつもは隠れている耳。
そこから伸びる滑らかな首筋。
ドレスの切れ込みから覗く太腿。
そして、足元の高いヒール。
無防備だと――最初に思った。
だが、同時にその姿に目が離せなくなった。
同僚であり、自分とは立場の違う護るべき一般人であるはずの彼女に、触れたいと思ったのは、たぶん初めてじゃない。
ただ、それを自覚したのは今だった。
(何かあったら、手を貸す)
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