及第点を超えてゆけ(つきいと+春日+シゲ)「う……ンまい! っす」
ハウス内のリビングは、ある種の賑やかな歓声が絶えない。主な原因は、あの世界を離れてもなお俺を慕う男だった。
「若、なんすかこれうまいっす!」
「とりあえず落ち着け」
元舎弟、こと茂田憲保、ことシゲ。半ば強引に試食要員として引きずり込んだのは、考案中のメニューのヒントが欲しかったからだった。シゲのいかつい風貌と洋風の茶会など(それも女性受けしそうなモチーフなど)、この世で最もかみ合わないもののひとつである旨は重々承知の上である。だが致し方ない。今は、いわゆる「猫の手も借りたい」状態なのだから。
食卓に並ぶ、次回のドレスアップメニュー。アリスのティーパーティーをイメージしたそれらは食事よりもやや軽めの質量で、味はもちろん見栄えするラインナップを考案したつもりだ。
1959