結婚式同期の中でもそれなりに早い結婚を決めた奴が、一応オーターに招待状を出した。まあ来ないだろうなと誰もが思ったのだが、返信はまさかの出席。
「オ…オーターが来るって?」
「こりゃ新婦側の女の子から未来の嫁は無理か…。」
「俺の結婚式大丈夫?」
オーター出席の事実を知った同期はビビり散らしたし、オーターに招待状を送った本人が一番ビビっていた。
「砂の神杖様だ…。」
「なんで神覚者様…?」
新郎側の一部と新婦側はオーターに視線が釘付けである。式の後に予定していたサプライズよりサプライズだ。
式の後のパーティではひっそりと端に寄って本を読み始めた。そういうところ変わんねぇな。同期が挨拶をしても一言二言話すだけだが、俺達同期からすればこういうイベントにオーターが来たというだけで快挙だ。
昔、後輩のアレックスがオーターの周りできゃんきゃんとしていた効果がちゃんと出ていた。
「俺も結婚したらオーター呼ぼう…。」
「俺も。」
「…ていうかあいつはアレックスのこと気にかけてたからじゃないか?」
「…ということは呼んで来るかどうかでオーターの好感度がわかるってことか…。」
「えぇ…来なかったら傷つくぅ。」
なんて話をしていたのだが、クソ忙しいんじゃないかな?って時期に招待状を送っても、オーターは同期の結婚式には参加した。なんだかんだで同期だと認識されてたんだなぁ。と少し感動。
オーターは社交性が高いわけではないし、話しかけんなオーラが出ているから新婦側の女の子に取り囲まれることもなく、いつも端でひっそりと本を読んでいる。一度それが新聞記事になった時は笑ったし、これ以降来てくれなくなるのではと心配したが、オーターは良くも悪くも他人の評価を気にしない。
そしてとうとう俺の結婚である。オーターに招待状を送ったのだが返信は欠席。は?え?
「俺オーターになんかした⁉︎」
「嫌われてるんじゃね?」
「うっそだろ⁉︎」
「凄いな。同期初の欠席。」
「やめろ!やめろ!」
めちゃくちゃ同期にいじられたが、本当に心当たりはない。いい加減面倒になったのか、忙しいのかわからないが、今まで出席していたのに欠席と返されると堪えるものがある。
その日の午後建物の倒壊を伴う現場に臨場した。犯人の魔法で倒壊した建物の下敷きになりそうになって、オーターが欠席って書くと死ぬ呪いか何かか?と現実逃避をした瞬間、どっと噴き上がった砂が建物の瓦礫を粉砕した。
「無事か?」
オーターである。
「き…」
「き?」
「きゃあぁあっ!オーター様ぁ!」
女みたいな歓喜の叫びを上げたら塵を見るような視線を頂いた。
犯人を鎮圧しテキパキと指示を出し終えたオーターに近づくと、オーターは俺を見て僅かにハッとした。
「そういえば、都合がつかなくて欠席ですまない。」
「えっ?あぁっ!結婚式。いや神覚者様が忙しいのは仕方ねぇでしょ。」
むしろ今まで出席していたのが奇跡みたいなもんだ。いやへこむはへこむけども。
「むしろ今助けてくれてありがとう。」
「…お前には代返5回分の恩がある。」
今でこそ規律の鬼とか言われているが、何を隠そうこの男魔法警察学校では大の遅刻魔である。本人は別に望んでいなかったが、同期は大体代返したりなんとか誤魔化したりしていた。教官はめちゃくちゃ怒っていたが、なにぶん合理主義者のコイツには全く響かなかった。
「…ん?俺の命って代返5回分?」
「あと4回は助けてやる。」
「1回分⁉︎軽いっ!俺の命軽い!」
「冗談だ。」
「真顔で言うなよ。」
初めて冗談とか言われた。
「行けない分花でも送る。」
「おー。なんか派手なの頼むわ。」
結婚式当日この発言を後悔した。
なんだかクソ高い花のアレンジメントが届いたのである。最初豪華な花だなぁくらいしか思わなかったが、招待客の中に花に詳しい人がいて、花の原価だけで俺が嫁に贈った指輪越えの金額。これが神覚者の財力。
結局我が家にそんな高価な花がどーんとあっても仕方がないから、招待客全員に配ってしまった。フラワーアレンジメントを贈ったのはオーターだと会場の人間にはわかっているから、みんなありがたがってもらって行った。まあ、オーターは注文しただけで触ってもいないだろうけど気持ちの問題である。