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    z_jousan

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    惨遊館ブロ〜ドウエ〜交流作品
    ラーメン屋に行く零と矢兵衛さん

    サタデーナイト人斬りフィーバー 小汚いラーメン屋の一角に備え付けられたテレビを観ながら、麺を啜る。小型の箱型のテレビの中ではフリルとリボンがたっぷり使われたステージ衣装を着た角の生えた女が、炎を噴きながらポップスを歌っていた。機材に引火したらしく、慌てて消火活動が行われているが、ドラゴンアイドルはそれを無視し大きな身振り手振りを伴って歌い続けている。
    「悪ィねぇ、矢兵衛さん。付き合ってもらっちゃってさぁ」
     レンゲでスープをかき回しながら、油ぎった赤いテーブルを挟んだ向いに座る、落武者みたいな容貌の男――矢兵衛さんにそう声をかけた。
    「映画のチケット奢られたら来るしかなかろう」
    「いや、ホント助かったぜ。この店来てみたかったんだけどさぁ、なんか知らねぇけど二人以上じゃないと来店出来ねぇって言うから。なんだろうね、カップル集客?その割に店内けっこう汚ぇよな」
    「お主、だべってないで早く食べないと冷めるぞ、それ」
     矢兵衛さんはそう言ってテレビに顔を向けた。ボヤ騒ぎを起こしたドラゴンアイドルはいつの間にか退場しており、今度はひとつの顔に口がやたらとたくさんある燕尾服の男の歌手が、ひとりでオペラをやっていた。矢兵衛さんはそれを聴きながら、時々チラッと俺を、正確には俺の目の前に置かれたラーメンを見ていた。飯が食えない相手をラーメン屋に付き合わせたことへの罪悪感がうっすら湧いたが、幽霊とはいえ俺も腹が減るので気にしないことにした。
     再びラーメンに向き合う。この「SHOW油油膜ラーメン」という謎の名称のメニューは、まあ普通の醤油ラーメンの味がする。見た目も普通だ。スープに浮く油が虹色に輝いている以外は。
     しばらく、俺はラーメンをすすり、矢兵衛さんはテレビを見ているだけの時間が過ぎた。深夜のラーメン屋には俺たち以外にもまあまあ客は入っていたが、人数の割に不思議な静けさの漂う店内には、妙に壮大なオペラだけが響いていた。
     口がたくさんあるオペラ歌手が朗々と「誰も起きてはならぬ」と歌い始め、俺が虹色の油ごとラーメンスープを飲み干した時、店内は唐突に騒がしくなった。
    「お前ら!全員遊カードを出せ!」
     絵に描いたような目出し帽の強盗が、バレルが三つも四つもついた銃を店主に突き付けていた。豚みたいな顔の店主は、こめかみの銃に怯みもせずダルそうな顔で両手を挙げている。
    「惨遊館ってけっこう治安悪いよな」
     にやにやしながらつまようじの先を齧っていると、矢兵衛さんは呆れたように
    「お主、絶ッ対楽しんでるだろ……」
     と言った。
    「まあね」
     バチ、と片目を瞑ったらため息をつかれた。矢兵衛さん、このウインクで俺が何人落としたか知らねぇだろ。
    「ってか、どうする?」
     こうだべっている合間にも相変わらず強盗は全くビビっていない店主を脅しているし、客は客で気にせず飯を食っている連中や、震えながら自ら遊カードを差し出したりする連中が半々だ。その中でベラベラとお喋りに興じている二人組は目立ったのか、強盗もいよいよこちらに視線を向けている。遊を出せ、と言いたげに。
    「拙者は撃たれても実害はないが、一方的にカツアゲされるのも良い気分ではないな」
    「だよなぁ」
     俺は壁に立てかけてあった愛刀をそっと手繰り寄せた。まあまあ旨いラーメンを食った後だ、腹ごなしが必要だろう。俺は矢兵衛さんに笑いかけた。
    「じゃあ俺、チャチャッとやってくるわ。矢兵衛さん、よ〜く見ててくれよ、用心棒は伊達じゃあねぇからな」
     俺はおもむろに立ち上がり、構えるでもなく一気に強盗に向かって踏み込んだ。予想外の動きに怯んだのか、強盗は慌てて銃をこちらへ向ける。複数のバレルはほぼ同時に火を噴いた。いいぜ、その反応は悪くねぇよ。
    「でも遅ぇな」
     神速の抜刀。放たれた弾丸の群れをはじき飛ばし、刹那すかさず二手目を繰り出す。弾丸をはじくため抜刀し下から切り上げた右手を返し、振り下ろす。改造された複数バレルの銃が、軽い音を立てて安っぽいタイルの床を滑って行ったのと同時に、強盗は右手を抑えてうずくまった。斬ってはいない。銃を飛ばすために、強か腕を打たせてもらった。
    居合は初手を外せば勝てる、とは誰が言ったか。だが逆を言えば、居合の遣い手は初手でカタをつけなくても良いのだ。――必殺の二手目があれば。
    「安心しろよ、峰打ちだぜ。……なぁんてな」
     決まった……と矢兵衛さんを振り向く。
    「……カッコつけてるところ悪いが、お主、零れたスープ踏んでるぞ」
     マジ?
     矢兵衛さんの指摘通り、俺の右足の包帯はスープの油膜で虹色になっていた。今更になってヌルヌルとした油を踏んだ感触が不快感になって背筋を這った。思わず苦笑いが込上げる。
    「あ〜あ、締まらねぇなぁ!」
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