サタデーナイト人斬りフィーバー 小汚いラーメン屋の一角に備え付けられたテレビを観ながら、麺を啜る。小型の箱型のテレビの中ではフリルとリボンがたっぷり使われたステージ衣装を着た角の生えた女が、炎を噴きながらポップスを歌っていた。機材に引火したらしく、慌てて消火活動が行われているが、ドラゴンアイドルはそれを無視し大きな身振り手振りを伴って歌い続けている。
「悪ィねぇ、矢兵衛さん。付き合ってもらっちゃってさぁ」
レンゲでスープをかき回しながら、油ぎった赤いテーブルを挟んだ向いに座る、落武者みたいな容貌の男――矢兵衛さんにそう声をかけた。
「映画のチケット奢られたら来るしかなかろう」
「いや、ホント助かったぜ。この店来てみたかったんだけどさぁ、なんか知らねぇけど二人以上じゃないと来店出来ねぇって言うから。なんだろうね、カップル集客?その割に店内けっこう汚ぇよな」
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