触れたくて触れてみたい、彼に
そう、鏡 慶志郎に
轟商事営業部係長の鏡 慶志郎、彼の容姿は端麗だ。日本人だけど日本人離れした彫りの深い顔立ちに、モデルのように長い手足。そして鍛えられた身体は服の上からも分かるほど筋肉質で引き締まっている。だがその見た目に反して性格は非常に自信家でナルシスト、あと女性が好きなんだとか
そんな彼は勿論だが色んな女性から好かれている、本人はそれが当たり前という態度を取っているし自然と腕を組まれたり体に触れられても抵抗を見せない、むしろ嬉しそうだ。私も最初は驚いたけど今ではもう慣れた。だってあんなイケメンだしね
でもそんな私でも1度でいいから彼に触れてみたい、でも顔が良すぎるし自分から触れられないから2m位から離れた位置から泣きながら拝むことしか出来ないと思う、だからいつもこっそりと彼を壁越しに見つめるだけ
「何故キミはいつもワタシを遠くから見てるだけなんだい?」
今日も女性社員に囲まれている彼を見つめているだけのつもりだったんだけど目が合ってしまい話しかけられてしまった、しかも周りにいる女性達に別れを告げこちらへ近づいてくるではないか
「そっ、それ以上は近付かないでください!」
私は慌てて両手を前に出し必死に距離を取ろうとすると彼が不思議そうな顔をして首を傾げた ああ…何この人可愛すぎる!そんな可愛い仕草されたら私の心臓が爆発してしまいますよ!! 私が心の中で悶え苦しんでいる間にどんどん距離が縮まってきてとうとう目の前まで来ると彼は止まった
「いつも壁越しから見てたよね、ワタシの事が好きなんだろう?遠慮せずとも来たまえ」
彼は手を広げて待っている、さあ来いと言わんばかりに。
「いやいやいや!無理です!顔良過ぎて近づけません!!」
こんな事言ったら絶対引かれてしまうに違いない、どうしよう、恥ずかしくて俯いていると頭上からクスッと笑う声が聞こえてきた 恐る恐る顔を上げると彼が微笑みながらこっちを見下ろしていた
「触れてくれないのかい…?」
少し悲しげな表情をするものだから胸がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われた、まるで構って貰えない子犬のような瞳をしているのだ
「あ、っ…え、えっと……し、失礼します…!」
恐る恐る手を伸ばし彼の腕を指でつつく、すると彼は目を丸くして驚いていた。
「それだけかい?」
意地悪そうに笑いながら聞いてきたので今度は思い切って手を握りしめてみるととても大きく骨ばった男らしい手で、ゴツゴツしていて温かくてずっと触っていたくなるくらい気持ちよかった もっと触れたいと思ったけれどこれ以上触れる勇気が無くて離そうとした時だった
グイッと力強く引っ張られて気が付けば彼に抱きしめられていた 何が起きたのか分からず頭が真っ白になり混乱する、彼が身に付けている甘い香水の香りが鼻につき頭がクラクラする
「あ、ぁぁ…!や、やです!離してください!わ、私なんか抱きついても楽しくないですよ!?」
何とか離れようと抵抗するがビクともしないどころか更に強く抱きしめられてしまう ヤバい、このままだと死ぬ、主に心臓が爆発する どうにか抜け出そうとしていると面白そうにクスクスと笑う声が頭上で聴こえる
「キミは本当に面白いレディだね」
そう言って離される、まだ心臓がバクバクいっている ああもうダメ、私死んじゃうかもしれない、そう考えながら息を整えていると顎に手を当て考える素振りをする彼はまた楽しそうに笑った その笑顔があまりにも綺麗で思わず見惚れてしまう
「これからは毎日ワタシに触れたまえ」
「………えっ?」
それからというものの営業部では毎日私の所へ来ては何かと触れさせようとし、恐れ多い私は猛ダッシュで逃げそれを面白がって追いかける鏡慶志郎が目撃されたのだとか