そんなことは起こり得ないのだ。
その時、因果凰介は何日か家を空けた。仕事上の都合だ、他に理由はない。
蟻方幸丸が家で待っているはずだと、何故かそう決めつけていたのだ。普段ならそんなことはしない。
何時に始まって、終わって、帰るのか、確認しなければならない。部屋には小さな黒い生き物がいるから。彼女を一人待たせることになると確実に知っている。
でも、忘れていたのだ。
ひどく日を空けてからドアを開けてリビングに入ると、黒い毛玉は部屋の隅に落ちている。触れると、それはいつもと違い安物の毛布のようにごわついた。
抱きかかえると、確かに、あの日小さな箱の中で鳴いていた毛玉のはずが、もうぴくりとも動かない。
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