以心 ベンチで目覚めた瞬間、大槻は大興奮! なぜって隣のベンチには、あの舌が絶妙に合う彼がいたからだ。これで今回の一日外出の楽しさが確約されたも同然である。食べ歩きの日にしていて本当によかった。舌も合えば外出の予定まで合うなんて、まるで魂の双子だ。前世で生き別れた兄弟だ。
と言っても、その興奮をやすやすと表には出さない。大槻と彼の間には心の奥深く秘めたシンパシーがひっそりと渦を巻き、互いが互いを意識しながらそれでも言葉を交わさないという実に奥ゆかしい関係性を保っている。実に日本人的侘び寂びがなせる感性ではないか。それを自ら壊すわけにはいかない。あくまでポーカーフェイスを保ちながら、ナチュラルに、フラットに。大槻はそう思っている。つまり舌の合う彼もそう思っているということだ。おそらく。
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