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    KiyuKi03636

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    第9回 せななるワンドロ お題「ファンサービス」 衣替えでクローゼット上部の棚を整理していた時だった。奥の方へと伸ばした手が何か硬くて冷たいものに触れた。指先でなんとか引き寄せ棚から下ろしてみれば、それは見覚えのない缶ケースでかなり大きなサイズをしていた。
     アタシのでないなら泉ちゃんのものだろうから勝手に開けない方が良いとは思った。でもそれ以上に、隠すような中身とは何かが気になってしまう。
    「すぐ元通りに仕舞っちゃえば、バレないわよね?」
     結局好奇心には勝てなくて、中を覗いてしまった。
    「団扇?」
     『真くん投げキスして!』『真くん♡作って!』『真くんウィンクして!』などなど見覚えのあり過ぎる文言が大きな団扇にデカデカと貼られ、可愛らしく飾られていた。
     実はうちにはかなりの枚数の団扇がある。主な理由は泉ちゃんがTrickstarのライブへ行くたびに作るからなのだけど、たまに凛月ちゃんと一緒に作ったり、それを見て楽しそうだと司ちゃんやレオくんが参加することもあって、一度も使われないまま仕舞い込まれているものも相当な数存在した。
     けれどそれらはリビングのクローゼットへ仕舞われているはずで、それをわざわざ寝室のクローゼットに移動させ隠すように仕舞う理由は思い当たらない。
    「それに泉ちゃんが作る団扇ってこんなに可愛らしかったかしら?」
     それに、泉ちゃんは真ちゃんのことを『真くん』とは呼ばない。
     そこでようやくある記憶が蘇った。
     あれは確か6年ほど前に夢ノ咲学院で開催されたとあるライブに参加した時のこと。機材トラブルで開始時間が遅れる事態になってしまい、間を持たせるため既に準備を終えていたアタシと泉ちゃんが駆り出された。
     適当なトークを繰り広げながら客席の間を二人で歩き回り、あと数分で再開できると連絡が入った頃だったか。泉ちゃんがとあるファンの前で歩みを止めた。よく見ればじっとその手元を見つめているようだった。
    「それ団扇だよねぇ?」
     マイクを通した泉ちゃんの声が会場に響いた。声をかけられたファンは頬を紅くし、頭が取れちゃうんじゃないかと心配になるほど激しく頷いていた。
    「なぁに? 二つあるから一つ俺にくれるの?」
     またも激しく頷くファンから『ゆうくん♡作って!』と書かれた団扇を受け取った泉ちゃんは「ありがとう」と王子様の微笑みを浮かべ、ばっちりカメラにも抜かれたそれは目の前だけでなく会場中のお姫様をメロメロにした。
     そのあと開催準備が整ったという連絡を受けて捌ける間も泉ちゃんはいくつか真ちゃんへ向けたはずの団扇を受け取っていたんだっけ。
     ——ゆうくんを応援しようなんて百年早いよねぇ。
     楽屋へ一旦戻ったとき、泉ちゃんは心底幸せそうな顔で鏡前に団扇を並べながらそう言った。
    「あのときの取っておいたんだ……別に隠さなくても捨てたりしないのに」
     真ちゃんのカラーである緑色で可愛らしく飾られた団扇を一つ一つ手に取り眺める。
     真ちゃんのファンの子たちが一生懸命作ったものだ。まさか泉ちゃんの手に渡るだなんてこれを作ってる時は誰も思わなかったでしょうけど。そんな想いのこもったものを勝手に捨てたりなんかしない。
     そう思って最後の一つに手をかけた時、下からチラリと一回りくらい小さい団扇が出てきた。色は他のとは違って黄色。反射的にアタシの色だと思った。
    「そんなわけないわよね……これは真ちゃんの——」
     果たして出てきたのは『なるくんキスして』と書かれた団扇だった。
    「えっ………………」
    「ただいまぁ」
     固まっていれば、いつのまに帰っていたのか泉ちゃんが寝室の扉を開けて入ってきた。
    「お、おかえり、なさい」
     普段なら絡んだ視線の先で優しく細められる瞳は、それよりも先にアタシの手元、もといアタシの手に握られた団扇に固定され見開かれて動かなくなった。
    「…………見たんだ」
     小さく溢れたのは疑問ではなく断定の言葉だった。今さら嘘をついたって誤魔化せるわけなんてなくて素直に「見ちゃった」と言えば、盛大なため息をついてその場に座り込んでしまった。
    「やっぱり置いとくんじゃなかった」
    「あれ泉ちゃんが作ったの?」
    「そうだよ。悪い?」
    「悪くないけど……なんで?」
    「…………」
    「泉ちゃん」
    「言わなきゃだめ?」
    「うん。ものすご〜く気になる」
     目の前で件の団扇を振りながら言えば、折れた泉ちゃんが渋々といった様子ながらも話してくれた。
     曰く、数年前に開催したアタシたちKnightsの単独ライブのとき、レオくんがアタシにキスをしたらしい。と言っても、アタシはまるで覚えていないのだけど。頬へ一瞬触れる程度のものだったというそれをいつまで経っても忘れられなかったという泉ちゃんに、その数日後うちで一緒に団扇を作っていた凛月ちゃんが『レオくんキスして』という団扇があったからではないか、と教えてくれたという。
     そこでじゃあ俺も作ろうとなるのが泉ちゃんの不思議なところだ。聞く限りではアタシたちが付き合った後のライブのようだし、普通にキスしたいとお願いしてくれれば断ったりしないし、むしろ喜ぶのに。
    「でも結局作ったあと、何してんだろってなって」
    「それで隠したのね?」
    「うん」
     抱え込んだ膝に顔を埋める泉ちゃんの耳は真っ赤で、それが可愛くてたまらない一方でイタズラ心が刺激されてしまった。
    「はいコレ持って」
    「え、なに」
     とりあえず持てと言われたから持ちました、と言わんばかりの団扇の構え方に笑いが込み上げる。それをなんとか飲み込んで泉ちゃんの頬に、チュッと可愛らしいキスを一つ。ファンサなんだからこれくらいでいいわよね。実際、お姫様にキスなんてどこだろうとしないけど。そう思っていたら案の定「これだけ?」と目をまん丸くした泉ちゃんが見上げてきた。
    「お姫様たちと濃厚なキスをするとでも?」
    「お姫様たちじゃなくても絶対やめて」
    「しないってば」
     今度こそ我慢できなくて笑えば、拗ねた子どものようだった顔がイジワルな笑顔へと変わり、とんでもない勢いで唇に齧り付かれた。
     受け止め損ねて二人でフローリングに転がるハメになったけれど、泉ちゃんが楽しそうにきすしてくるからしばらく好きなようにさせた。
     そろそろ息がもたないと思って肩を叩こうとしたら、同じタイミングで息が持たなくなったのか、それとも満足したのか、さっきとは違う幸せそうなため息と共に離れていった。
    「やっぱりファンサじゃ満足できそうにないから団扇はボツだねぇ」



    *****



     なるくんに団扇が見つかってしまった数日後。帰宅した俺を待ち受けていたのは『泉ちゃんハグして』と書かれた団扇を持ったなるくんだった。
     ちなみに裏側は——あんたたちの想像にお任せしようかなぁ。俺はなるくんへのファンサで忙しいからね。
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