宝島の海底救出パロ千ゲ「 ……ここからの局面、どうしてもメンタリストが要る」
緊張感でぴんと張り詰めた洞窟の中、千空はそう宣言した。
仲間を逃がすため、石化光線を浴びて石像と化したゲンが、敵勢力により海の底に投棄されたのは、数日前の話になる。
「 フゥン、確かにこの先、敵の勢力図や住民との交渉に、あの男は欠かせないだろう。
……しかし千空、貴様自ら回収に向かうなど、正気の沙汰とも思えん」
海の底に沈んでいる以上、潜水スキルと回収を完遂できるだけの体力は必須だ。
こう言ったことには、もっと適した人材がいるだろう。たった3つしかないボンベを、ミジンコ体力に割り振るなど、ありえない。
そう、龍水の言いたいことはわかる。
合理的な判断をすれば、それが正しい。
けれど。
「 あ"あ、だろうな。……だが、今回は俺が行く」
頑として譲らない態度に、龍水は逆に興が乗った様子で同行を許可した。
……ボンベの耐久時間は10分。
その間に、海底からゲンを探して引き上げなければならない。
となれば、メンバーは自ずと絞られた。
クロムにあとを任せると、龍水と大樹を伴い、海に潜った。
ソユーズからあらかじめ、おおまかな位置を聞いていたため、石像群の沈む、珊瑚礁の狭間には比較的スムーズにたどり着いた。
大樹には、合間で砂に埋まった仲間たちの救援を並行して依頼し、目的の石像を探す。
すると、少し進んだ先の珊瑚礁に隠れるように、ゲンは倒れ伏していた。
仲間たち同様、着衣は全て剥ぎ取られている。……振り返ると、ちょうど大樹は救助した仲間を船に運ぶため、浮上したところで。
千空には、石像を担いだまま浮上できるだけの膂力はない。
─── ……これしかねぇか。
腰に結わえていた皮袋から、一本のフラスコを取り出して。
ボンベの空気で空間を中和し、下からフラスコの中身を浴びせた。
直後、やわらかい光が周囲を満たし、硬い石と化した身体が、徐々に体温を取り戻していく。浅い眠りから醒めるように、ゆっくりと夜色の瞳が開いた。
「 ……あれ?せんくう、ちゃん?」
そう呼びかける形に、くちびるが動いて。
直後、海水を吸い込んだようで、口からごぼごぼと水泡が溢れ出した。
あとは浮上するだけだが、この状況ではゲンの息がもたない。
くちびるが触れそうな距離まで近づくと、ボンベの空気をゲンに分け与えた。
ようやく息ができるようになって。
呼吸を整えると、一瞬で状況を理解したかのように、ゲンはほほえむ。
『 ……さて、メンタリストのお仕事かな』
そんな声が、水泡に紛れて聴こえた気がした。