140字SS詰め
①
「干空ちゃんは太陽みたいだよね」
「あ"ぁ?」
「俺たちはその周り回ってる惑星で…そうだ、干空ちゃんが太陽で俺が星だったら俺は何の星だと思う?」
「……ウェヌス」
「 え?」
「 何でもねぇ。馬鹿言ってねぇで手ェ動かせ」
「 ドイヒー」
……Venus。金星。地球にほど近くてまばゆい、愛の星。
②お題、アイスで書いたやつLove portion
「あ!そうだ!アイス食べに行かない?ハロウィンフレーバー出たの」
「…この時期にかよ。腹冷えんぞ」
「じゃ、冷えたら干空ちゃんがあっためてよ」
俺が奢るからさと笑う男に安易にそういうことを言うなと思う。店に着くと黄緑と紫の華やかなニ段の上にもう一段。ピンクを重ねて此方に差し出した。
反射的に口に含むと、とろけるようにあまさが広がって。舌の上に載ったちいさなチョコレートのカタチに苦笑した。……そうだ、このフレーバーの名前は。
「 惚れ薬なんざ今更必要ねぇだろうが」
シニカルに笑いかけると、目の前の男ははにかんだような悪戯めいた笑みを浮かべた。
③ お題「仲直り」で書いたやつ。
Promise for you
「あ"〜…」失敗した。拙った。ぐしゃぐしゃと頭を掻きながら呻くように呟く。よりにもよって半年前からの約束に実習をブッキングさせてしまうなど。誠心誠意謝ればゲンは許してくれるだろうが、自分の中で落とし所が見つからなくて。無意識にクラフトをしていたことに気づき、苦笑した。
「俺も大概ワンパターンだな」自嘲気味に呟いてゲンの部屋に向かう。ノックすると細く開いた扉の隙間から夜空の色の瞳が覗いて。ゆっくりと手の中のモノを捉えた。小さく吹き出す音がして、扉が開く。
「あ"〜…その、今回は」
「いいよ、その代わり」
「俺に一生コーラ作ってよね」
「…あ"ぁ、約束だ」
④手を握る
一緒に街を歩いていると、無意識に早足になっている自分に気づく。隣に並ぶのに不釣り合いなのではなどと思っているわけではないが、……こう言った関係になって日が浅いから、なんだか気恥ずかしいような気がしているのは確かだった。けれど、流石にこの雑踏でははぐれかねない。
そう意を決して。後ろを少し遅れて歩く恋人に手を伸ばして、手を握った。改めて触れた手は意外にかっちりしていて。指が長くて、すべらかで。…違う。何を考えてるんだとあたまに血が昇る。居た堪れなくなって離しかけた指を、重なる手がキュッと握り返して。振り返ると、含羞んだような笑顔があった。
⑤焼き芋
「 うう〜、今日ゴイスー寒いねぇ……あれ?焚火?俺も当たっていっていい?」
「 おう、ちょうどいいとこに来たな。寒ぃと効率が落ちる。……もっと火の近くに来いよ」
ちょうどいいとはどういうことだろう。そう思いながら千空のそばまで行くと、薪の下から何やら香ばしい匂いがした。
「 あれっ?何か作ってる?」
「 あ"ぁ。……そろそろ頃合いだな」
そう言って木の棒で薪をかき分けると、その下からこんがり焼けた芋が姿を表す。それを紙に包んで、手渡してくれた。あったかい。
早速半分に割ると、ほくほくとした黄金色の身が覗いて。口に含むと、やさしい甘さが広がった。
⑥結晶
……吐く息もすっかり白い帰り道。いつのまにか背丈を追い越しそうに長くなった影に、季節の移ろいを感じてそっとマフラーに顔を埋めた。家まであと少し、だけど。
携帯に手を伸ばして、寸の間躊躇したあとリダイヤルボタンを押す。いち、にい、さん、……きっちり四回目。
聴き慣れた声が、やわらかく名を呼んで。それだけでふんわり、あたたかいきもちになった。怪訝そうな彼に、えへへとわらって。
「 ……寒いねぇ」
ひとこと、そうつぶやく。
風邪ひかねぇうちに早く帰ってこいと返す彼に、頷いて。
空を見上げると、灰色の雲の隙間から、白い結晶が舞い落ちてきた。
⑦帰ったらご飯作ってくれてたダーリン
…疲れた。今日は思ったより仕事が立て込んでしまい、気が付いたら昼食すら摂れないままだった。時計はすでに21時。ということはまるまる12時間以上何も食べていないのか。その事実に気づいてしまうと、急激な空腹感に襲われた。
「 …干空ちゃんのラーメンたべたい」
死にそうな声で呟いて帰路につく。そういえば干空はまだ研究室に閉じこもっているのだろうか。そう思いながらドアを開けた瞬間食欲を唆る芳香が漂った。
「 干空ちゃんのラーメン!」
反射的に顔を上げると、目の前の青年は一瞬目を瞠ったあとクククとわらう。それから、ぽんぽんとあたまをなでた。
「……おつかれさん」
その言葉に、ぐにゃぐにゃになってしまい、そのまま干空の腕の中に倒れ込む。ふいにかかった荷重にバランスを崩して、干空はゲンの頭を抱え込んだ状態で玄関先に倒れ込んだ。
「干空ちゃんメンゴ!大丈夫⁉︎」
「……なんだ、こっちが先か?」
泡を喰うゲンを抱きしめて。
そっとくちびるを重ねた。しばしそうして縺れ合ったあとふと笑って干空から身体を離す。
「ラーメン伸びちまうから続きはあとでな」
ちゅ、と額にくちびるを落として。ゲンを支えながら身を起こした。待ちに待ったラーメンはとても美味しかったけれど、ふわふわと現実感がなくて食べた気がしなかった。
⑧発熱
……熱病のようだ、と思う。
彼を見るたび、視線を感じるたび、言葉を交わすたび。
呼吸すら管制下に置いていたはずなのに、まったくそれが利かなくなってしまう。鼓動が、いつもより早い。触れられると……いや、声を聴くだけで。
身体が熱を帯びたようにぽかぽかとあたたかくなって。吐く息も、いつもより間隔が浅い。
自分はどこか壊れてしまったのだろうかと思うほど、コントロールが効かない。あまくやわらかく、こころを満たす、微熱のような感情。
なるほど、これが恋。
……いとしいとしと、いうこころ。