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    toriton_ggg

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    ブレブレ19無配のミン蒼SSです。

    flower「ミンク、おかえ……、へっ?」

    帰宅したミンクを見るなり、蒼葉は驚いた。出迎えのことばを言い終える前に間抜けな声が出るほどだった。

    いつもとそう変わらない帰宅時間。ミンクの肩にはオールメイトのルラカンがいる。ミンク自身の表情も普段とさほど変わりはない。しかし決定的に違うのは、彼が抱えてきた荷物だった。

    その日ミンクは、大きな花束を抱えて帰ってきたのだ。

    「え……なに? どうしたんだよそれ?」
    夕食の支度の手を止めて、蒼葉はミンクに駆け寄った。足元にいた蓮もついてくる。
    「受け取ってくれるか」
    「あ……はい」
    言われるままに大きな花束を受け取る。ミンクが持っていても立派な大きさのその花束は、蒼葉が持てば尚更だった。色とりどりの花が咲いている。この土地の花なのか、日本では見たことのない花も多い。
    蒼葉に花束を手渡したミンクは、コートを脱いで椅子の背もたれに仮置きすると、いつものようにキッチンへ手を洗いに行ってしまった。ルラカンがミンクの肩を離れて蒼葉のもとへ飛んでくる。
    「今日、なんかの記念日だっけ……?」
    思わず小首をかしげて記憶をたどるが、思い当たることがない。
    ミンクが花束を持ち帰ったのはこれが初めてだった。記念日は相変わらず忘れずにいてくれるが、そういう時は決まってミンク手製の装飾品や現地の工芸品、普段あまり買わない酒などだ。それにミンクの様子は、記念日の花を贈るにしてはあまりにも淡々としている。
    ガーデニング始めよっかなあ、と以前に話したこともあるが、まだ何も手つかずの状態であったし、今日ミンクが持ち帰ってきたのは苗ではなく切り花だった。
    ルラカンが蒼葉の肩に舞い降りて、口を開いた。
    『蒼葉、それはミンクが今日、人助けをして貰ったものだ』
    「人助け?」
    蓮とはまた異なる、落ち着いた心地よい電子音声で語りかけてくる。ルラカンのことばを受けて蒼葉がキッチンの方向を見やると、濡れた手を拭き終えたミンクが戻ってきた。
    「たいしたことはしていない」
    聞けば、昼間にミンクの工房の前でちょっとした騒ぎがあったらしい。リヤカーに花を積み込んで街へ来る花売り娘が、若い輩二人組に恫喝されていたというのだ。
    もともと治安が決して良いとは言えない――ただしこれは蒼葉の基準で、この国でいえばましな程度だろう――土地で、そういったことは珍しいことではない。
    しかし工房の外から聞こえてくる諍いの声が段々と大きくなり、少女の悲鳴に似た声も聞こえてきたのでやむなくミンクが外へ出たのだという。
    「騒いでいる連中を追い払ったら、花売りの娘に『花を受け取ってほしい』と言われてな」
    ミンクは固辞したが、どうしても、とすがりつかれて、しぶしぶ花を受け取ったのだった。
    「追い払ったって……怪我とかは!?」
    「俺も、誰もしていない」
    「そっか……」
    心配そうな顔をしてミンクを見つめていた蒼葉だったが、安堵の表情に変わる。
    大きな花束を抱える蒼葉の頭に、ミンクが手を伸ばして軽く撫でた。
    「押しつけて悪かったな」
    ミンク自身、薬草の知識としていくらか花のことは知りえているが、鑑賞するほど愛好はしていなかったし、蒼葉にも花の趣味がないことはミンクもわかっていた。受け取っても扱いに困るだけだろう、と言いかけたとき、それは違うと蒼葉はミンクを見上げた。
    「なに言ってんだよ、ミンクが活躍したから貰えたんだろ? 嬉しいじゃん」
    大輪の花が開くように、蒼葉は鮮やかに笑った。
    思いもしなかった反応に、ミンクは少し驚いたようだった。
    「花の扱い方なんてわかんねえけど……ミンクに教えてもらったり、蓮に調べてもらったりして、いろいろやってみたい」
    『蒼葉、まずは花が元気なうちに水を与えたほうが良いのではないか?』
    蒼葉の足元にいた蓮が、後押しするように提案してくれた。
    「それもそうだな。蓮、やり方調べてくれるか?」
    『承知した』

    その日の夕食の時間は、花をどう活用するかで話がもちきりだった。
    「せっかくだからどっかに飾ろうぜ? たくさんあるから選り分けて、だけど……あ! ドライフラワーは? あと匂い袋とか。ポプリ、だっけ?」
    「匂い袋に使える花と使えない花ってたぶんあるだろ? 使えないほうを生で飾って、それから……」
    「……そうだな」
    楽しそうに花を扱う蒼葉を眺めながら、ミンクは花売りの娘のことばを思い出していた。


    私は花しか差し上げられません。でもどうか、花とともに幸福があなたに訪れますように。


    ――幸福は、ここにある。


    翌日、使っていなかった水差しに活けられ、窓辺に飾られた花は、陽の光を浴びて何よりも美しく咲いていた。(了)

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