決戦前 漂淵「北落野原に?将軍へ会いに行くのか」
「うん」
淵武道場の隣、六羨茶屋で漂泊者と淵武は茶を嗜みながら雑談をしていた。
漂泊者の顔はいつもの柔和な表情をしていたが、淵武と目が合うとすぐに視線をそらす。
(言いたいことがあるなら言えばいいんだが、若いからな)
「この前の三清茶、美味しかったよ。外でも飲みたいんだけど、茶葉まだある?」
「ああ・・・それなら持ち歩き用の袋に入れたものががあるから、持っていきなさい」
「ありがとう、淵武」
茶をすすりながら、淵武はぽつりと呟いた。
「いいか、命あってこその戦いだ。・・・無事に帰ってくるんだぞ」
ぽん、と手を頭に載せられた漂泊者は顔を少し赤くして「子供扱いしなくても、わかってる」とつぶやく。
「・・・それで、お前がいない間してほしい事があるんだろう?」
「分かっちゃった?」
頬をぽりぽりと掻き、漂泊者が気まずそうにする。
「ははっ、お前が俺に頼みたいことがあるとは場を設けた時に気付いていたよ」
「淵武は鋭すぎる!」
「俺とお前の仲だからな」
くすりと笑う淵武。「帰って来たら容赦しない」「おや。強気だな」
平和なやり取りをいくつかしてから、漂泊者は客が減った事を確認するとぽつりと切り出した。淵武はふう、と一息つくと茶を一口だけ飲み、空になった茶器を置く。
「それで、話なんだけどー・・・・」
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三日後、淵武は今州城の前に赴き、辺りを見回した。可憐な共鳴者の少女や天工防衛の責任者、城内で教鞭をとっている教官など精鋭が揃っている。
すでに場は緊迫した空気に満ちていた。
(何かあるかもしれないから城を守ってほしい、とは言っていたが)
俺にはちょっと役余りじゃないか?と思い出し笑いをして、歩き始める淵武だった。