「メイさん!一緒に年越ししませんか!」
部下であり、相棒でもある花崎夕間から年越しの誘いを受け、暁明星は家族以外の者と初めて年を越すことになった。
両親は健在だが今は別の場所で暮らしており、また今年は海外で暮らす妹あさひのところへ行くということで、今年は一人そばをすすって年を越すものと思っていた。
隣でカートを押しながら、何買いますか?ときらきらした目で見られ、思わず眩しさに目を細める。そういえば、夕間も家族と過ごさないのかと聞こうと思っていたが、本人が語らないのであれば踏み込むのは野暮なことだ。出かけた言葉をぐ、と飲み込んで、とりあえず二人分のそばと、ちょっと豪勢に大きな海老天をかごへ入れる。夕間がビールやカクテル、おつまみを持ってきたのでそれも入れ、年の瀬の買い物を終えた。
「人多かったですね」
「ああ…でも、年の瀬って感じがするな」
事件に追われ、私生活もだらしなく、メリハリの無い一年になるはずだった。それが花崎夕間のおかげで一変し、辛く悲しいことも多々あったが、それでも楽しいことの方が多かった気がした。クローゼットに増えた私服や、夕間が来たときに使うマグカップが、その証明だ。
夜になり、大晦日の特別番組や紅白を見ながら談笑する。気がつけばもう日付が変わる間近になっていて、そばを茹でるために立ち上がる。夕間も釣られて立ち上がって、いそいそと冷蔵庫からそばと海老天を出してきた。
さっとそばを茹で、付属のタレを湯で割って丼に入れる。海老天は少しレンジで温めて、ネギと一緒に乗せる。ダシの香りに満腹だったはずの腹が鳴った。
二人で手を合わせてそばを啜る。夕間がつるつるとそばを食べている姿は、なんというか、口に出したら怒られそうなので言わないが、小動物のようで愛らしい。いつものように七味を1瓶入れたら引かれるのがわかっているので、とりあえず3振りほどで我慢した。
カウントダウンが始まり、日付が変わった。遠く除夜の鐘が聞こえ、夕間と目が合い、お互いに頭を下げた。
「あけましておめでとうございます、メイさん」
「ああ、今年もよろしくな、夕間」
「はい!おまかせください!」
丼を片付けて、はた、と気づく。去年近所の神社で初詣の参拝客に甘酒を配っていた。確か帰宅する前に立ち寄って、温かい甘酒の入った紙コップを貰った記憶が蘇る。
「…夕間、初詣行くか」
「行きます!」
元気よく手を上げる夕間に口元が綻ぶ。十分に暖かくして外へ出ると、空は澄んでいるが、指先が痛いほど寒い。神社は歩いて5分ほどのところにあり、ちらほらと参拝客が集まっていた。
参拝を済ませて境内のテントに立ち寄る。やはり記憶違いではなかったようで、甘酒が配られていた。
「あ、甘酒配ってますよメイさん!」
暖かさに引かれるように夕間が甘酒を取りに行く。途中年配の奥様方に捕まってお菓子をポケットにねじ込まれていた。
「お、お待たせしました!」
「お菓子もらえてよかったな」
「こ、子供じゃないのに!」
むくれる夕間を撫でながら、ベンチに座って甘酒を飲む。胃が暖かくなるのを感じ、ふう、と白む息が大気に溶けた。
「メイさん、メイさんは何をお願いしたんですか?」
「ん?んー…そうだな、来年も平穏無事にいられますように、かな」
「メイさんらしいですね」
「お前は?」
「…秘密です!」
「俺だけ言わせてお前言わねぇのかよ…まあ、いいけど」
「へへ、でも、来年もメイさんと居られたらいいなって、思います!」
夕暮れの双眸が、いたずらっぽく揺らめいて、細められる。
その言葉に、そうだな、と短く返し、つかの間の安息を噛みしめる。
ーーーどうか、隣の小さく、自分にとって大きな存在が、健やかでいられますように。
おまけ
「メイさん!おみくじも引きましょう!…あ、俺末大吉でした!」
「………………」
「メイさん?」
「凶……………か……………(ガックリ)」
「め、メイさん!!!!!」