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    COMOYAMA

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    COMOYAMA

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    俺様の部屋 ただのいちゃべそ

    ##小説

    (眠れねえ)

    寝付きの良くない日は、心が満足していないからだと聞いたことがある。


    枕元の明かりをつけたまま、ベリトは思い出していた。今日は朝からソロモンたちも、いつもの酒好きの3人もバラバラに遊びに出ていた。外は雨らしく、小さいメギドたちは静かに図書室で読書。ポータルの前ではガープとフォカロルが会話をするでもなく番をしていて、なんとなく並んでみたが「あくびをするならあっちへ行ってろ」と追い出されてしまった。そのうち夜になり、結局なにもしないまま一日を終えるところだ。

    (久々にマジで退屈な日だった…)

    無理やり目を瞑っているとしばらくして、たったった、と廊下から足音が聞こえてきた。音はベリトの部屋の前で止まり、誰かの気配もそこに留まっている。

    (…なんだ)

    この状況は、ベリトにとっていい思い出が全く無かった。

    屋敷にいたときの話だ。そろそろと近寄ってくるような訪問者はだいたいノックもなしに入り込んで来て、金を出せと抜かすか、ぎらぎらした目つきで跨ってくるかだ。そういう輩が来るたびに、男も女もふんじばって窓から放り投げてやったのだが。

    (どこのどいつだ、ったく…)

    ドアを睨んでいると、コンコンと控えめなノックが響いた。

    「誰だ」
    「ごめん。寝てたか?」

    ドアが開き、ソロモンが顔を覗かせた。いつもの胸のひらけた黒い服ではなく、ゆったりとした寝間着を着ている。そわそわした様子で、なにやら平たい箱を両手で持っていた。

    「いや、構わねえ」

    体を起こしてベリトが顎で促すと、いそいそと入ってきて寝台に乗り、木箱を置いた。

    「あのさ。今日市場で買ったこれ、なにかわかるか?」
    「ん?」

    蓋を開けると中には、マス目の描かれた紙が数枚、駒のような人形、サイコロ、色のついた棒や板などがバラバラと入っていて、なにかの遊戯に使う物のようだ。

    「なんだこれ。俺様も知らねえぞ」
    「そっか…説明書がないから安かったんだけど、ベリトでもわからないか」
    「ジャンク品かよ」

    これを見つけて、ソロモンはきっと目をきらきらさせたのだろう。説明書がなくても、バラムやベリトがルールを知っていて遊べるかもしれないと思って。そういう好奇心はベリトも気に入っているところの一つだった。

    「けど、そう古いもんでもなさそうだな。明日ツテを当たってやってもいいぜ」
    「本当か!」
    「テメェも来るか」
    「あぁ!行きたい!」

    ソロモンが嬉しそうに笑う。今日は初めて見る笑顔だ。

    (コイツが、部屋に来ただけで)

    暗がりの中で、小さな明かりを頼りにルールのわからない遊戯を広げて。それだけで、今日の退屈が吹き飛んだ。空っぽだったこの部屋が、頭が、胸がいっぱいになる。こんな夜は屋敷にいた頃には一度だって訪れなかった。思わず顔をほころばせながらベリトは座り直す。

    「じゃ、それ横に片しとけ」

    当然このままここで過ごすのだろうという言葉にソロモンは慌てた。

    「ごめん。今日は戻るよ」
    「なんでだよ」
    「今アリトンが部屋の片付けをしてくれてて…」
    「それがどうした」
    「戻らないと心配する」
    「ほっときゃ察するだろ」
    「それが恥ずかしいんだって!」

    あの過保護め。アリトンが見ているということは、今日はソロモンを休ませたいということなのだろう。もちろん無視したって構わないが、無理をさせては明日連れ出せないかもしれない。しかし、顔を赤くしてうつむいているソロモンに何もせず返すのは出来ない。

    「面倒くせえな…じゃあ一回。こっち来い」
    「…うん」

    言葉に素直に従い、腰を浮かせて距離を詰めてくる。ふわふわの生地に包まれた温かい体にベリトは気を良くして、さらりと頭を撫でる。ソロモンは、顔は向けても視線は合わせてこない。

    「う…」

    更に顔を近づけて覗き込むと、ぎゅっと目を閉じてしまう。構わず唇に触れるとそのたびに小さなのどが鳴き、ふっと息を漏らす。毎回のことだが、今日はそれがとくにベリトを煽るらしく、何度も何度も、耳にも首筋にも触れた。

    「い、一回って言った!」
    「言ったか?」
    「言った!」

    シラを切りながら潜り込ませてくる手を必死で払う。半泣きで、息を整えながら箱を片付けているソロモンをベリトはにやにやしながら見ていた。

    「そうだ、明日起こしに来い」
    「え」
    「ノックなしでいいぜ」
    「びっくりするだろそんなの」
    「いいんだよ」
    「…怒るなよ?」

    ソロモンが訝しがってもベリトは笑うばかりだった。


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


    再び一人になった部屋の明かりを消す。息をつきながら横になり目を閉じると、さっきまでのイライラもモヤモヤも全てなくなっていて、よく眠れそうに感じた。明日一緒に出かけよう、そんな約束をしただけで子供のように機嫌を直した自分が、恥ずかしくも嫌いではなかった。


    明日、部屋の外に誰かの気配を感じてもそれはソロモンだ。
    退屈も、つまらない思い出も、全部あいつで塗りつぶす。

    お前だけが近づいていい俺様の部屋(なか)だ。
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