ごわごわとした、寝なれないシーツの感触でベリトは目を覚ました。部屋はまだ薄暗く、空気は少し冷たい。体を起こすと簡素なベッドがミシミシ鳴り、そうか今日はこっちの部屋だったと思い出す。
「すー、…すー」隣でソロモンの小さい寝息がする。
体を丸めて猫のよう。俺様に背を向けやがって。起こしてでも顔を見ようと肩を掴む前に、黒髪のかかったうなじが目に入った。細い首をぐるりと走る刺青は、今のベリトには目印に見えた。
――噛めばいいんだったか、これ。
今日の昼間のことだ。本を物色しにフルーレティの部屋を訪ねたところ、作家先生は机に突っ伏して気絶していた。その脇からは書きかけの原稿がはみ出ている。
「最新作、漏洩」にやり笑いながらサッと引き抜く。話はなにやら注意書きから始まっていて、メアリー・チェリーらしくない。
1994