かぜっぴきのこいぬ くしゅん、と小さくくしゃみをしたのは昨日の事だ。ずる、と鼻を啜り、仄かに赤い顔をしていたのを見てからの行動は早かった。シグウィンを尋ねて様子を見て貰えば季節の変わり目だから、と風邪の診断を受けた。消化にいいものを食べて、沢山眠ったら良くなるのよ、と言われて薬を処方してもらい、一応熱が出た時用にと、解熱剤もくれた。
幼いリオセスリへ何が食べたいかと聞けば、普段と同じように答えていた彼だったが、その様子が変わったのは夜中……明け方頃のことだった。
きゅうきゅう、と情けない鳴き声に目を覚ます。腕の中がやけに熱くて、ヌヴィレットは視線を下げた。
「リオセスリ殿?」
は、は、と呼吸が荒い。熱も上がっているようで汗をかいていて寝間着がしっとりとしていた。
「ぬい、え、ぉ、あ」
ず、と鈍い詰まった音がする。鼻が詰まっているようで、口で呼吸を繰り返している。ぎゅ、ぶぶ、ぶ、と鼻が塞がって呼吸に変な音が混じり、耳は伏せて、いつも元気よく振られている尻尾はだらんとしていた。
「のろ、いらい」
「水を持ってこよう、飲めそうだろうか」
「う、ん」
「いい子だ、少し……」
ベッドから下りようとして服を掴まれた。小さな手が、ヌヴィレットの寝間着を掴んでいる。ず、ず、と鼻を鳴らしながら。
「リオセスリ殿、」
どこに行くんだと言わんばかりに睨まれる。熱があるせいか、幼いその目は潤んで泣いているようにも見えた。
「水を取りに行くだけだ」
「やら」
「すぐにもどるゆえ……」
ぶぶ、ぶ、と変な唸り声がする。鼻が塞がって空気が通らないらしく、呼吸が詰まって咳き込み、はっきりとした声でリオセスリが声を上げた。
「いや」
そういった彼の目からぼろ、と涙が零れて落ちていく。一度零れ始めれば止まらないようで、シーツにじわじわと滲ませていく。どうしたら、とほとほと困ってしまい、ふとベッドサイドの椅子にかけてあったカーディガンが目に入った。手を伸ばし、サイズの大きいそれでリオセスリを包むようにして巻き、大事に抱き上げる。
腕の中の彼が熱い。起き上がらせれば途端に鼻水が出るのか、ず、ぶ、ぶ、と変な音が聞こえた。ティッシュを持ち、鼻をかませようとしたが上手にできないようで、ぶうぶうと鼻が鳴る。口で呼吸を繰り返すせいで喉が痛むのだろう。顔を真っ赤にさせて、鼻で呼吸できないせいで喉を痛めている姿があまりに痛々しい。楽にしてあげられたらと思い、ヌヴィレットがリオセスリの鼻先に口付けた。そのまま濡れた鼻下を舐めれば、リオセスリの身体がびくりと強張るのを感じた。それから、小さな鼻を食み、じゅる、と吸った。
「!?」
びく! と先ほどより大きく反応してリオセスリに身体を押される。いやだ、やめてくれ、と言いたげに暴れたのもお構いなしに吸い、唇を離した。
「息が出来るようになったか? リオセスリ殿」
良かれと思ってしたことだったが、完全に硬直してしまったリオセスリへ首を傾げる。心なしか熱も少し引いているように見えて、リオセスリを連れて、ヌヴィレットはゆっくりキッチンへと向かっていった。