お前の心を持ち逃げしたい「あー、もしもし?」
緊張でスマホを持つ手が震えた。ちゃんと出るよな? というドキドキもつかの間、発信して5コール、約束した時間ちょうど。カイザーが電話に出て、俺はイヤフォンを耳に押し込んだ。
電話越しに衣擦れの音が聞こえる。既にベッドに入っているらしい。
「世一」
カイザーの声がいつもより低く聞こえた。胸がギュンと高鳴って、思わず布団のシーツを握りしめる。くそ、イヤフォンから直接耳に響いてくるから心臓に悪い。
俺も布団に潜り込んで、部屋の外の両親に声が聞こえないよう防御する。恋人がいることは、まだ言っていない。俺たちが付き合い始めたのは、ほんの一週間前のことだからだ。
好きな人の声だけしか聞こえないという状況にドキドキして、目を閉じながら話しかける。
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