ハワードの夏休み11日目と12日目八月十一日は吉川英治の誕生日です。
ラヴクラフトはアイスとケーキを食べに、そして吉川をお祝いするためにお昼時に食堂に行きました。
誕生日パーティは祝われるものがいつやるかを決めることができます。大体はお昼か夜になります。
「アイスを食べて機嫌がよいですね。ラヴクラフトさん」
「パプリカ、アイス。美味しい。予想以上」
ラヴクラフトはパプリカアイスを食べていました。パプリカをアイスクリームにしたものです。美味しくないと思いましたが、
吉川の誕生日に出されて、さらに彼に笑顔で勧められたので、仕方がなく食べてみたら美味しかったのです。
アイスを食べているラヴクラフトに話しかけてきたのは江戸川乱歩でした。
「よろしければこのクリームソーダーもどうぞ。青色にしてみましたよ」
「飲みます」
乱歩がストローが入った青い液体の入ったグラスを渡してくれました。青色のクリームソーダーです。
クリームソーダーはこの図書館にきて初めて飲んだのですがアイスクリームが美味しく、しゅわしゅわもとても美味しい
飲み物です。パプリカアイスを完食したラヴクラフトはクリームソーダーを飲んでいました。
「お誕生日おめでとうございます。吉川さん」
「乱歩殿。感謝する。ラヴクラフト殿もパプリカアイスを完食して偉いぞ!」
「アイスで食べられるなら、パクチーも」
「嫌。嫌、です」
吉川は今日も元気でした。この図書館ではおひさまのようと言われています。とっても明るいです。
パクチーを勧められましたがラヴクラフトは速攻で首を横に振って遠慮しました。パクチーは敵です。コリアンダーは敵です。
「チョコミントもそうですが、パクチーも特に好き嫌いが分かれますので」
苦笑いと共に呟いたのは中島敦です。表の方でした。彼は二重人格で、表の方はラヴクラフトが道に迷っていたら案内をしてくれて、
裏はたまにラヴクラフトにハンバーガーを作ってくれます。
チョコミントとパクチーは特に好き嫌いが分かれると中島は言いますがその通りでした。
「うむ。きのことたけのこの戦争のように好き嫌いで戦争が起きるというからな」
きのことたけのことはラヴクラフトはこの図書館で知った戦争が起きる組み合わせです。実際のきのことたけのこではなくて、
チョコレートのお菓子です。
「どちら、好きです? きのこ、たけのこ」
「われはどちらも好きだし、きこりのきりかぶも好きだし、船の絵が描いてあるチョコクッキーも好きだぞ」
「好き。私も。どれも」
「平和だな」
「こうしてみると……身長が高いすぎる子供と親のようですね」
「よくいわれるようです」
きのことたけのこのどちらかが好きだと吉川に聞けば吉川はどちらも好きと言ってさらに好きなお菓子を追加してきました。
ラヴクラフトもお菓子は大好きです。吉川とラヴクラフトが話している光景を中島の裏人格の方が平和と言い呟き、
乱歩の言葉に中島の表の方が同意していました。
本日も、平和です。
【12日目】
帝国図書館は去年からブックカフェをしていました。毎月の第二土曜日と日曜日、第四土曜日と日曜日で
営業をしていましたが好評だったので今年からは図書館の休館日以外は出来るだけやるようになりました。当番は主に文豪たちが
交代交代でやっています。
「あっついな」
「暑い」
「おっ、ラヴクラフトじゃねえか」
散歩をしていたラヴクラフトはいつの間にかブックカフェの中に居ました。いつの間にかです。開店前のブックカフェは
静かでした。中にいたのは石川啄木です。啄木はカウンターテーブルの上にかき氷の機械を出していました。氷を入れて手で回すものです。
ブックカフェには電動式のかき氷の機械があるのですが、
「かき氷。機械、あります」
「こっちで食いたくてよ。精霊馬も作りてえが、まずはかき氷だ。お前も食うか」
「食べます」
「店が開くまで時間はあるからよ」
啄木はガラスの器にボトルに入ったかき氷のシロップを用意してました。帝国図書館でもかき氷は出しているのですがシロップをしっかりと作った
かき氷になっています。桃やミルクティーのかき氷、マンゴーなどが出ています。啄木は硝子の器に蒼いシロップをいれました。
お前は何がいい? と聞かれたので、あか、とこたえます。
「せいれいば、馬?」
「この時期になったら出るだろ。茄子とかキュウリに割りばしを挿して生き物を作る奴。お盆が近いからな」
「お盆。ぼんおどり、張り紙」
「それだそれだ。俺様がやるなんておかしい話かもしれないが風習だよ。風習」
啄木は赤いシロップを器に放り込み、手回しのかき氷機で氷を削って半分ぐらいまで氷をいれます。さらにそこにシロップを投入。
また氷を乗せてからシロップを乗せていました。
精霊馬について啄木に説明をされ、ラヴクラフトはどんなものか分かりました。啄木は気軽にかき氷をラヴクラフトの前に出します。
「かきごおり」
「最近は豪華なのがはやってるが量が多めだろ。ここはミニもやるようにしてるけどよ。豪華すぎるのもなってなってこれが食べたくなる」
啄木がスプーンを置きます。
かき氷は豪華なものが増えました。マンゴーも桃も果肉が載っていたりしますが量が多いと言われるのも豪華すぎるというのも何となく
ラヴクラフトは分かります。かき氷は気楽に食べたいのです。
「あかいろ。おいしい」
「これを食ったら手伝ってくれ。今日の他の当番は」
「――君。店の準備前にかき氷かい? いいご身分なのだよ」
「ラヴクラフトさん。ポーさんが探していましたよ。何処へ行ったのだと」
啄木はブックカフェの他の当番は誰か知らなかったようです。待っていると北原白秋と三木露風がやってきました。
「いっつもお前は探されてないか」
「探されます。います。私」
「貴方のことをポーさんは心配しているんですよ」
「かき氷は僕にも作り給え。ふわふわの方で桃にするのだよ。君は?」
「私は……そうですね。ラヴクラフトさん達が食べている方で」
「ふわふわ。たべます。露風」
露風が遠慮をしているようだったのでラヴクラフトはふわふわの方をお勧めしました。豪華な方のかき氷はまず機械から違うのです。
ラヴクラフトはかき氷をひたすら食べ続けています。
「ハワード!! かき氷を食べているとは」
「アンタも食うか? どうせ俺様二つ作るし、三つ作っても一緒だからよ」
「……ふむ。ならばマンゴーを貰おうか」
「ポー様」
ポーがやってきました。啄木は直ぐにポーにかき氷について聞きます。まだブックカフェの開店前には時間がありました。
啄木はさっさとかき氷を作り始めます。
「開店準備をしておきましょう。掃除ですね」
「準備が終わったらかき氷なのだよ」
「手伝います。準備。作ります。後で。精霊馬」
「精霊馬ですか。私も手伝います。作りますよ」
「貴様はカトリックではなかったか」
「いいのだよ。日本の風習ということであの子も、司書も作っているんだ」
「雑だよなぁ……」
開店準備をラヴクラフトも手伝うことにしました。精霊馬も作らなければなりません。露風はカトリックなのに精霊馬を作るのかと
ポーは言っていました。白秋が言うには特務司書の少女も精霊馬を作っているようです。彼女もカトリックです。
啄木が呟きながら氷の準備をしています。ラヴクラフトたちも開店準備をすることにしました。